友人に「ほら、これ見てよ、笑っちゃう」とスマートフォンを差し出され、我が目を疑った。画面に映っていたのは、習近平国家主席が安倍首相との握手で見せたあの表情である。友人が受け取ったそのメールの文面には「習主席の表情、意味深長。。。案の定 ~転送します~」とあった。

 11月10日、筆者は上海の金融街・陸家嘴で、大手保険会社に勤務する中国人OLを呼び出してお茶をした。話題はもっぱら習近平国家主席と安倍首相の会談についてだった。

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)の期間中、安倍首相と習主席が行った握手、そのときの習主席の表情が波紋を呼んだ。習主席は安倍首相と対峙しながら「会いたくない」とでもいうような表情だった。その仏頂面を伝えるニュースは一瞬にして中国全土に拡散した。「微博」(ミニブログ)や「微信」(SNS)でもコメントが続々と書き込まれた。

 あの表情をどう解釈し、どう評価するかについて、上海でも熱い議論が展開された。

 習氏といえば「習大大(シーダーダー)」との愛称で呼ばれ、市民にとって敬愛の対象でもある。就任当初は半信半疑だった市民も、腐敗撲滅キャンペーンなど社会悪と闘う姿勢に今では信頼を寄せるようになっていた。「理性的な人物」「前政権に比べ期待できる」など前向きな評価も耳にするようになった。

 スマホの画面を見せてくれた保険会社勤務のOLは、「表情はどうあれ、これ以上日中関係は悪くなることはないでしょ」と言う。だが、習氏は「あの表情」を見せたことで、その信頼感が大きく損なわれてしまった。