高脂肪・肉食主体の欧米型食生活の定着に伴い、日本人が罹るがんの種類には大きな変化が生じた。死亡率を見ると胃がんなどが低下する半面、大腸がんが増加して女性は1位、男性でも3位まで上昇している。
早期発見できれば、大腸がんは手術で完治する確率が高い。しかし初期段階では痛みなどの自覚症状がなく、発見が遅れるとがんが大きくなり、肺や肝臓などに転移するリスクも大きい。この場合、手術できないケースが多く、抗がん剤を使う化学療法や放射線療法を患者に施すことになる。
また、術後の再発にも配慮する必要がある。国立がん研究センターがん情報センターによると、再発の8割は手術から3年以内に発見され、5年以上再発しないことが完治の目安になるという。
進行してしまった大腸がんに対する化学療法では、メルクセローノ(本社スイス・ジュネーブ)が開発した分子標的抗がん剤「アービタックス」が抜群の効果を発揮し、各国の医療機関で高い評価を受けている。
アービタックスは「分子標的治療薬」と呼ばれる薬剤の一種。がん細胞に特徴的なタンパク質などの分子を狙い撃ちし、増殖を阻止する。短期間で腫瘍が小さくなる効果を期待できるほか、副作用も皮膚障害など比較的軽度なものに抑えられる。
アービタックスの奏功率(効果が表れた患者の割合)はおよそ70%、延命効果は平均23.5カ月に達するという。世界80カ国で販売承認を受けて「欧州製薬市場で最も成功を収めた新薬の1つ」とされるが、日本の承認は米欧から約4年遅れの2008年。だが今では日本でも1次治療薬として使用可能になり、急速に普及し始めている。
「個別化治療」が医療費削減の切り札に
治療初月 | 8万4930円 |
2~3カ月目 | 8万3630円 |
4カ月目以降 | 4万4400円 |
(注)高額療養費制度を使う場合、身長160cm・体重53kg、70歳未満、所得区分「一般」
出所:メルクセローノ
この薬剤で最も注目すべき点は、大腸がんで初めて「個別化治療」を実現したことだろう。患者の遺伝子や体質を予め調べ、薬剤が効くことを確認した上で投与する「オーダーメイド型」の治療法である。
個別化治療ならば、効かない患者に高価な薬剤を投与する無駄を省けるため、国家財政を圧迫する医療費を画期的に削減する可能性を秘めている。同時に副作用も減らすため、将来はがん治療の主流になると大半の専門家が予測する。