平均寿命が延びる中、問われる機会が多くなっているのは「健康寿命をいかに延ばすか」という部分だ。実際、厚生労働省の調査でも、平均寿命と健康寿命では、男性で9年ほど、女性で12年ほどの隔たりがある。そのようなテーマにおいても、縁居の価値を考えてみる意味はあるかもしれない。

日常的な介護や通院などが不要で、健康に制限されることなく生活できる期間、「健康寿命」をいかに延ばすかということが重要だ。
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 「住居と健康の関係は決して浅くありません。例えばドイツでは、住宅内外の温度差で起きるヒートショックが脳卒中などの原因として問題になっていました。そこで政府は家の断熱性能を上げるために、毎年3%の住宅を断熱改修する施策を行っています。一見、省エネルギーのための施策に見えますが、実は医療費を下げる政策とも言えるんですね」

 日本でも医療費の上昇は深刻な問題だ。縁居がその問題に直結するかどうかはまだ分からないが、そういった住宅からのアプローチもあることは事実だろう。

60代後半から新たな人生のステージへ

 とはいえ、例に挙げた「縁居」を実現できるような集合住宅の例はまだまだ少ない。通常のマンションと違い、住人への継続的なケアやサービスが必要となるため、事業者(運営会社)の負担も大きいように見える。だが、それでも「このニーズを見逃してはいけない」という。

 「これまでは、高齢者の方の8割以上が『家族の判断』で施設に入ります。ただ、団塊世代の多くはそういった受動的な判断よりも、自分の考えを優先する傾向にあります。おそらく近い将来、その施設や住居の満足度情報なども公開されていくでしょう。そういった意味で事業者の方が取り組むべき事象だと見ています」

 日本では、子どもと2世帯で余生を過ごす高齢者も多い。もちろんそういった人たちは今後も変わらずにいるだろう。ただ一方で、子世代に頼らず、早々と別の住まい、あるいはライフステージに移る人も増えてくる。

 「アメリカでは、50代、60代から次の住まいを検討して、新しいコミュニティーに属する人も多いんですね。シニア同士でゴルフをやったり、大学の講義を受けたり。早い方では50代終わりでそれまでの家を売却し、シニアコミュニティーへと移る人もいます。もちろん日本とは文化や風土で差がありますから同列には見られませんが、似たような動きは日本でも増えてくると考えられます」

 60歳を超え、老後を過ごす人たちの選ぶ「終の棲家」。団塊の世代がその住まいを選ぶ上で、縁や役割、存在価値を感じる環境は大きなポイントになるだろう。このマーケットが今後どんな動きを見せるのかを見守りたい。