またしても高血圧治療薬が問題になっている。3月3日、武田薬品工業(以下、武田薬品)の長谷川閑史社長らが、誇大広告の疑いに関する謝罪会見を行ったことが報道された(毎日新聞、朝日新聞デジタル、ロイター)。これを受け、ジョーンズ・デイ法律事務所が、第三者機関として問題点の調査を3カ月程度かけて行うことが3月7日に同社から発表されている。
発端となった由井医師の指摘
ことの発端は、京都大学病院の由井芳樹医師が執筆した、論文の問題点を指摘する一通の書簡だ。米国心臓協会(AHA)が発行する高血圧を専門テーマとして扱うハイパーテンション誌電子版に2月25日付で掲載された。
対象となった臨床研究は、武田薬品が販売するカンデサルタン(商品名ブロプレス)に関する「CASE-J(Candesartan Antihypertensive Survival Evaluation in Japan)」試験である。日本のエビデンスに基づく医療(EBM)の先陣を切ったとされる、医師主導の大規模臨床試験だ。権威と言われる著名な教授陣が名前を連ね、2008年1月に同誌上で発表されていた。
この論文に関し、由井医師の書簡では2点の疑義が指摘されている。
1点目は統計解析手法の問題、2点目は、論文で用いられているグラフと、学会発表や薬の宣伝で使用されたグラフに相違があるという問題だ。武田薬品側が早々に事実を認め、7年余りも不適切な販売促進を行っていたとして謝罪したのはこの2点目だ(東洋経済オンライン、郷原信郎が斬る、ダイヤモンドオンライン)。
一般論として、学会発表の段階では、解析の途中経過だったり、論文掲載までの過程で第三者の評価レビューを受け訂正が入ったりする場合もある。通常は、論文が正式な発表データとして後世に残されるため、2008年のCASE-J試験の主論文発表後も2006年の学会発表時のデータを用い続け、論文の科学的解釈とは異なる宣伝を行っていたことが問題だったようだ。
注目されるCASE-J試験論文の疑義への対応
CASE-J論文の統計解析に関する1点目も、論文の信頼性を損なう可能性がある無視できない問題だ。事実であれば、論文データの大幅な修正、最悪の場合は論文の撤回にもなりかねない指摘のように思える。こちらへの対応は研究者側の問題だが、解析を中心に行った京都大学EBMセンターなど関係者がどう回答するのかが注目される。
刑事事件化したノバルティス社の問題においても、ランセット誌に掲載されたバルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験に関して、由井医師が統計学的な疑義を2012年に表明していた。