関西のデパートや高級スーパーで「紀州きのこ園」ブランドのきのこが売られている。肉厚で身がしまったシイタケ、そして太くて形の整ったエリンギだ。消費者は、まさかこれらのきのこをつくっているのがガソリンスタンドを運営する会社だとは思いもよらないだろう。

 ガソリンときのこの接点を探すのは難しい。そもそもガソリンは燃料であって、きのこのように口には入れられない(もちろん毒きのこは食べられないが)。両者のイメージもほど遠いものがある。ガソリンは力強い。エンジンの中で火花に触れて爆発し、人間よりはるかに大きくて重い乗り物を走らせる。片や、きのこはか弱い。赤ん坊の小さな体のように軽くて、きゃしゃである。

 どう見ても相容れないガソリンときのこだが、石橋(和歌山県日高郡)は両方で商売を営んでいる。本業としてガソリンスタンドを経営しながら、紀州きのこ園と名付けた2つの工場でシイタケとエリンギを栽培し、販売する。

石橋が「Gasta」ブランドで展開するガソリンスタンド

 石橋は1961年に石橋石油店として設立された。長らく大手元請け会社の系列店としてガソリンスタンドを運営していたが、94年の石油業界の規制緩和を機に非系列店化を図った。「Gasta」というプライベートブランドを立ち上げ、現在は和歌山県内で12店のセルフ式ガソリンスタンドを展開している(1店はセミセルフ式)。

 石橋は2008年からきのこ栽培事業を開始した。既存のリソースを活用したわけではなく、ガソリンスタンド事業との相乗効果が見込めたわけでもない。一体なぜ、きのこ栽培に進出したのだろうか。

 そこには、地域に密着し地域と一体化して生きる中小企業ならではのいきさつがあった。「地域の役に立ちたい」という思いに突き動かされたのだ。もちろん事業性を評価してのことである。ただし根底にあったのは、「地域の森林資源を守り、雇用を守る」、ひいては「地域そのものを守る」という志だった。

 だからこそ同社は異業種のハードルを飛び越えた。それはきわめて自然で必然的な選択だった。きのこ栽培事業にかける思いを石橋幸四郎社長に聞いた。

シイの木が増えて困っていた森林

──ガソリンスタンドの運営ときのこ栽培を同時に手掛けている企業は日本でここだけではないでしょうか。なぜ、きのこ栽培を始めたのでしょうか。

石橋幸四郎社長(以下、敬称略) ガソリンの需要が少なくなるだろうということは前から言われていましたので、我々もガソリン以外の事業の柱を探そうと考えていたんです。自動車の部品をつくろうかという話もあって、検討はしてみたんですよ。でも、それなら和歌山のこんな辺鄙なところでやる必要はないし、後から始めて他の部品メーカーに追いつくのも大変です。

 それよりも我々としては地域のものを生かした事業をやりたかった。では、地域資源は何があるのかというと、和歌山は木の国と言われるくらいですから森林資源が豊富にあります。そこできのこをつくることになったというわけです。きのこなら森林資源を生かせるし、地域のためになります。

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