参院選での民主党大敗が明らかになった直後の7月12日の各金融市場は、この日本で起こった大きな政治イベントに、ほとんど反応しなかった。株安・円安・債券安の材料にはなるものの、大きな動きにはならないだろうと事前に予想していた筆者でさえも、拍子抜けの感を抱いた。
為替市場では、東京市場の時間帯にドル/円相場が一時89.15円まで円安ドル高に動く場面があったが、前週末9日のニューヨーク市場終値が88.65円なので、円安方向に動いた幅は50銭でしかない。その後、12日のロンドン市場とニューヨーク市場でのドル高値はそれぞれ、88.94円、88.71円。東京市場よりも欧米市場の方が、反応はさらに鈍かった。
東京株式市場は、総じて小動き。選挙結果を材料に売り先行で始まった後、為替相場が円安に動いたことをみて上昇に転じる場面もあったが、日経平均株価は結局、前週末比小幅安で取引を終えた。
債券市場では、事前予想に反して債券が売られる場面はほとんどなく、時間の経過とともに買いが強まる展開。朝方に1.150%をつけた10年債利回りは、午後には1.115%まで低下した。債券市場の需給環境がきわめて良好で、押し目があれば買いに動きたい投資家が多かったことに加え、この日に日銀が国債買い切りオペを実施したことで超長期ゾーンに買い戻しが入りやすくなったことも、背景として指摘されている。
なぜ、参院選での民主党大敗に対して、市場の感応度がきわめて鈍かったのか。以前から筆者が指摘してきていることも含めて、あらためて整理すると、以下のようになる。
(1)日本の政治情勢は市場に数ある材料のうちの1つにすぎないこと。
市場の関心は米国の景気下振れリスク増大や企業決算の内容、欧州のストレステストなど、より大きなテーマに集まっている。
(2)日本経済のプレゼンスが低下していること。
米国に次ぐ世界第2の経済大国の地位を中国が得ようとしている中で、欧米も含めた市場参加者が中国のマクロ経済指標や株価動向を注視する場面が増えている。その一方で、「落日」の日本については、その経済や政治の動向が世界全体に及ぼす影響度合いがすでに低下している感が強く、市場の関心はどうしても薄れがちである。
(3)日本の政治情勢の落ち着きどころが、まだ見えていないこと。
菅内閣は「内憂外患」状態に陥っているが(7月12日作成「民主党は参院選で44議席の大敗」参照)、菅直人首相は続投し、人事は9月まで先送りされることになった。民主党代表選は9月5日を軸に調整(7月13日 読売)。その動きが注目される小沢一郎前幹事長のグループに属する議員からは、「菅降ろしに動くのはまだ早い。首相に(こちらの注文を)全部丸のみされたら、代表選を戦いにくくなる」との声が出ている(7月12日 時事)。松木謙公民主党国対筆頭副委員長が述べているように、代表選に出馬するには「(小沢氏の資金管理団体『陸山会』の政治資金規正法違反事件に関する)検察審査会の結論も、小沢氏がクリアしなければならない問題だ」という状況でもある(7月13日 読売)。