こんな夢を見た。
若者は、谷中の墓地に沿った小道を日暮里に向かっていた。牛丼とみそ汁で温まりたかった。司法試験浪人の若者には元日の青空も虚ろに見えた。すると、和服姿であごひげを生やした痩せた老人に呼び止められた。
「若い人よ、腹が減っているようだな。まあ雑煮でも食べていきなさい」という言葉にひかれて、古い木造の家の玄関を入った。表札には「南海先生」と書いてある。
靖国参拝で米中は第2次世界大戦前の同盟関係に
コタツの中で若者が雑煮を食べ終わると、老人は話しだした。
「わしは、南海先生じゃ。中江兆民が明治20年に書いた三酔人経綸問答という本の中でこの世に呼ばれた。今から127年前じゃ。その後の日本は、わしの予言通りになったので、今まで生きながらえておるのじゃ。日本の将来を語るのがわしの役目じゃ」
どうせ嘘だろうと思ったが、将来を語るという老人の言葉にひかれて、若者は聞いた。「安倍晋三総理が靖国に参拝して、これからのアメリカや中国との関係はどうなるのですか」
老人は答えた。
「ただでさえ、今の米中関係は米中経済同盟と呼ぶべき関係だ。この靖国参拝で、戦前の米中同盟に先祖返りする力学が強くなった。なぜなら、総理の靖国参拝は、日中戦争も太平洋戦争も日本の軍国主義者が悪かった、日本の国民には責任がなかったという戦後世界にとって都合のいい約束事に日本が異議申し立てをすることになるからだ」
「A級戦犯の合祀の後は天皇陛下も靖国には参拝していない。そもそも、中国の侵略を始めたのはヨーロッパであり、そのチャンピオンが7つの海を支配したイギリスだった。その根本はこれまで不問に付されてきた」
若者は聞いた。「それでは日本は悪くなかったのですか」
老人は答えた。
「日本は間違えた。隣の中国が弱いからといって、イギリスのまねごとをして植民地にしようと侵略すれば必ず失敗するとわしは警告した。孫文も死ぬ3カ月前に神戸で日本人に警告した。わしは、哲学者のカントが『永遠平和のために』という本で予言したようにヨーロッパの植民地主義はお互いを極限まで殺し合った末に崩壊し、その後、平和を維持するための国際連合ができ、アメリカという新しい共和国がその中心になるという洞察が実現することを知っていた」
「だから、わしは、中国と同盟して兄弟国になるべきで、敵国に回すのは下策だ、中国こそ大きな市場、尽きることなく湧く利益の源泉と説いたのだ。そうしていれば、戦争で自滅するヨーロッパを尻目に、日中は繁栄を謳歌できた、中国だけでなくアジア中に日本への恨みを残すことはなかったのだが・・・」