若者は聞いた。「なぜ、日本はそうしなかったのですか」
老人は答えた。
「1929年、アメリカのバブルが崩壊して大恐慌に突入したからだ。悪いことに、アメリカは大恐慌を世界に広げたうえに、自国中心の保護貿易主義を始めて日本やドイツなど資源と植民地に乏しい国の経済を追い詰めた」
「ドイツではワイマール共和国が破綻してアドルフ・ヒトラー政権ができ、日本も満州国建国に走った。ヒトラー政権が世界初の預金者保護制度で金融を立て直し、無料の高速道路網の整備で交通網を向上させて失業者を20分の1に減らし、ヨーロッパ一の軍事力を持ったのを見て、日本はドイツに傾いた。アメリカの責任は大きいよ」
インターネットとグローバル化の最大受益者、米国と中国
若者は聞いた。「どうも話が複雑で分かりにくいのですが、それでは、アメリカが悪かったのですか」
老人の声に力が入った。
「根本的に悪かったのは、ヨーロッパの海賊植民地主義だ。日本はその真似をした。戦後は、アメリカ中心の国連の力によって、イギリスやフランスなどは植民地のほとんどすべてを失った。対して、敗戦国日本とドイツが経済大国になった。それというのも、戦後の冷戦体制で、アメリカが同盟国日本やドイツを優遇してきたからじゃよ」
若者は聞いた。「でも、日本が成長したのは、日本人が頑張ったからではありませんか。それに今では、冷戦は終わっています。これからは、アメリカは中国に肩入れするのですか」
老人は答えた。
「20年前の鄧小平の時代から米中の経済同盟は始まっておる。インターネット革命とグローバリゼーションで世界経済は初めて1つになった。米中はその受益者であり、経済同盟は加速する」
若者は反発を覚えて言った。「それでは、アメリカは軍事的に膨張する独裁中国を受け入れるというのですか。それでは、尖閣はどうなるのですか。アメリカは日本を守らないのですか」
老人は答えた。
「お前が怒るのは無理もない。今の中国は資源と領土の野心を隠そうともしない。『満洲国は生命線』と主張した戦前の日本を思い出させるよ。それでも、アメリカの本音は波風を立てずに米中経済同盟が拡大することだから、首相が靖国に参拝すれば、アメリカは中国に傾くよ。だがな、この中国の勢いはいつまでも続かないよ。そこからが世界と日本の正念場だね」