MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 2013年12月3日の毎日新聞は、「特定秘密を取り扱う公務員らに対する適正評価について、行政機関から照会を受けた病院は回答義務が生じるとの見解」を政府が示したと報じました。

報道

 「内閣官房の鈴木良之内閣審議官が参院国家安全保障特別委員会での法案審議で『照会を受けた団体は回答義務がある』と述べた。共産党の仁比聡平氏が『病院に調査があったときに回答を拒むことはできるか』とただしたことへの答弁。仁比氏は『患者は主治医を信頼して話せなくなる』と指摘した。法案の12条4項は、特定秘密を扱う公務員らが適任者か判断するため、『公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる』と規定しているが、病院などの団体側については義務規定がない。鈴木氏の答弁は、政府がこの条文を事実上の『義務規定』とみなし、医師らに情報提供を強要する可能性があることを認めたものだ」

ジュネーブ宣言

 第二次世界大戦中、医師が、国家の命令で戦争犯罪に加担したことがあります。ドイツではこのような医師たちの行為は法律に則っていましたが、ニュルンベルク継続裁判で起訴され、23人中、16人が有罪になり、7人が処刑されました。断わっておきますが、この裁判自体、戦勝国が正義を敗戦国に押し付けたもので、手続き上、公平なものではありませんでした。新しく作成した規範に従って、過去の行為を裁くもので、大陸法の原則に反していました。

 第二次大戦後、医療倫理についてさまざまな議論が積み重ねられ、医療における正しさを、国家が決めるべきでないという合意が世界に広まりました。国家に脅迫されても患者を害するなというのが、ニュルンベルク綱領やジュネーブ宣言の命ずるところです。

 これは行政上の常識にもなっているはずです。ナチス・ドイツでは、国の暴走に医師が加わることで、犠牲者数が膨大になりました。医療における正しさの判断を、国ではなく、個々の医師に委ねなければ、悲劇の再発は防げません。これは日本の医師の間でも広く認識されています。

 例えば、虎の門病院で2003年に制定された『医師のための入院診療基本指針』の第1項目では、「医師の医療上の判断は命令や強制ではなく、自らの知識と良心に基づく。したがって、医師の医療における言葉と行動には常に個人的責任を伴う」と定められています。

 下に示すジュネーブ宣言は、世界医師会の医の倫理に関する規定です。臨床試験についての規範を定めたヘルシンキ宣言などとともに、日本を含む多くの国で、実質的に国内法の上位規範として機能しています。

 ジュネーブ宣言は、医師に徹底して患者の側に立つことを求めます。その責任主体は、主語が示すように、「私」です。政府の求めるままに個人情報を報告すれば、患者個人の自由が奪われます。