再生医療の課題

 従来の医薬品の多くは、低分子化合物のような医薬品は化学物質を合成したものであり、品質が安定し、評価方法は定まっている。医療機器は金属や電子回路で主に構成されており、医師の技術熟練度がからむとはいえ、機器の性能自体の評価は難しくない。

 一方、再生医療では、細胞を培養するというプロセスにより化学物質のように高度に均質で再現性の高い製品を作成することは容易でない。不均一な製品では治療効果も不均一となる。

 また、培養のプロセスで最も留意すべき問題は、細胞の癌化であり、治療に用いる何万個もの細胞が不均一で1つでも癌化した細胞が混じっていると、そのような製品で治療された患者に癌が発生する危険性がある。

 特に、日本で主流となっている自家細胞を用いた再生医療製品は、非常に不安定かつ不均一であり、効果や安全性の科学的評価はなかなか容易ではない。

 一方、欧米で主流となっている他家細胞の場合は、比較的安定で均質な製品を作成することが可能であることから、時間はかかるものの効果や安全性の科学的評価が可能である。ただし、他家細胞の場合には、体内に細胞や臓器を戻した際の拒絶反応が問題となることから、理想的には自家細胞を科学的に評価し製品化することが理想と考えられるとする意見もある。

 また、他家細胞であっても、新たな研究の進展により免疫抑制剤が不要となる可能性もあるという意見もある。加えて、iPS細胞においてもさらに腫瘍化のリスクが高くなることを心配する声もあるが、100%の安全を保証することはなかなか難しいだろう。

 米国FDAにおいても再生細胞医療の審査のハードルはきわめて高いという声もあり、特に、重要視されているのは、安全性の検証である。

 その一方で、再生医療を求める患者は重症疾患や難病を有することが多く、なぜ自分の細胞を用いるのに自国で治療を受けられないのか、と主張する患者の声もある。

 再生細胞医療の審査に対するベンチャー企業や大学からの批判には、上記のような再生医療の課題がその背景にあるものと考えられる。