アラブの産油国でもしも石油が枯渇してしまったら、今の繁栄から一気に衰退へと向かうだろう。また、もしもアメリカから金融やコンピューターなどの先端技術がなくなれば、超大国から転落し、メキシコやブラジルとさほど変わらない国になるんじゃないのかな。
日本は資源のない島国だ。でも、この国には人と技術という資源がある。
かつて日本人は勤勉、礼節、謙譲といった美徳を持っていた。勤労が尊いこととされ、町工場の職人たちもこつこつと腕を磨き、創意と工夫で他国では真似のできない製品をこしらえていたんだ。
日本の製造業は素材を輸入して、世界トップクラスの技術とアイデアで製品をつくり、世界に送り出した。製造業は日本の国の根幹であり、それを支えていたのが町工場なんだ。
町工場は、いわば日本の油田だよ。もし、町工場がなくなり、技術が途絶えたら、産油国にとって油田が枯れるようなものだ。そうなったら日本が立ち行かなくなるのは目に見えている。普通に考えれば、当然、国は町工場をおろそかにはできないわけなんだが。
現在、日本の下町の町工場の多くが廃業に追い込まれようとしている。だけど、国は対策を打つわけでもなく、町工場を支援しようとはしていない。今度の参議院選挙でも、「町工場を救いましょう、世界一の技術立国を復興させよう」って政策を掲げた政党は見当たらないしね。
農業政策、公共事業には金がバラまかれている。しかし、それで景気が良くならないのは、過去20年で実証済みだ。
どうして政治家は「町工場を救いましょう、世界一の技術立国を復興させよう」って言わないのか? おれには不思議でしょうがないんだよ。
日本の製造業が簡単なものしかつくれなくなる
デフレで物が売れないから、町工場の仕事が減る。中国製との価格競争で、どんどん儲からなくなっていく。儲からないから従業員を雇えない。息子も工場の後を継がないから、後継者がいなくなる。
町工場の多くが、こういった負のスパイラルの中に放り込まれて廃業に追い込まれている。こうした流れが、東京の墨田区、葛飾区、大田区辺りだけではなく、全国的に起きている。
町工場が1つ消滅すれば、貴重な技術が1つ消滅することになる。それが、10社、100社、1000社と店じまいをするようになったら、その数だけ日本から技術がなくなることになるんだな。
技術というのは知恵と工夫と忍耐の結晶だ。10年やそこらでできるものではない。もし、職人の技が途絶えたら、再び、それを取り戻すには莫大な歳月がかかるんだ。
これが国にとっては重大な損失であり、技術立国日本の根幹を揺るがす危機だって真剣に考えている政治家が果たして何人いるのかねえ。これでは国を危うくするよ。
世界のトップクラスだった日本の製造業は現実に今、後退し始めているんだよ。太陽電池やリチウムイオン電池の開発競争でも、いつしか日本は韓国や中国といったライバルに後れを取っている。
日本の産業を支えていた、すごい技術を持った人たちがほとんどが引退したり、すでに亡くなったりして、職人の数も昭和の最盛期に比べて激減しているんだ。