1 はじめに
あの戦慄的な、歴史上初めての化学兵器による地下鉄サリン事件から18年、一瞬我が目を疑った、ハイジャックされた旅客機による世界貿易センタービル等に対する米国同時多発テロからまもなく12年である。
また、サイバーテロの脅威は現実のものになりつつあり、100年以上の歴史あるボストンマラソンの爆弾テロ事件やアルジェリア人質拘束殺害事件も記憶に新しく、世界はテロの脅威に晒されていると言ってよい。
本稿では我が国のテロ対策を概観し、その課題と解決方向を提示したい。
2 テロの概念
(1)テロの定義
警察庁組織令、公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律、公安調査庁の要覧および自衛隊法などに、定義とおぼしきものが示されている。
自衛隊法第81条の2第1項に示されている定義は次のとおりである。
「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、または重要な施設その他の物を破壊する行為」
上述の法律などに共通する要素は、
●政治上の目的達成のため
●不安や恐怖を抱かせる
●殺傷や破壊等の暴力行為である。
(2)特性など
いわゆる一般の犯罪行為と異なる点は、特定国家などの積極あるいは消極的な関与がある。9.11以降、「テロとの戦い」という考え方も定着している。
伝統的なテロは、要人を標的とすることが多かったが、現在では無差別テロが主流となっている。また、政治性がますます強くなった。
また、テロの手段も、以前は銃や刃物が主体であったが、現在は航空機や列車、爆弾しかも自爆テロもあり、テロ手段の予測不可能性が増大し、テロ手段に関する知見も容易に入手できるようになった。
さらには、ホーム・グロウンテロリストやローン・ウルフと呼ばれるテロリストも出現し、誰がテロリストかますます不明瞭になりつつある。グローバル化の負の側面が表れている。
日本人は、テロリストは“外から入って来る”ものと漠然と思っているが、そうとは言い切れない状況になりつつあるのかもしれない。
なお、テロについては、国際的に定義化の動きはあるものの、各国の利害や認識の差異もあり、テロリズムを表現する適宜な用語は存在していないとされている。