前回(「CVTへの強烈なアンチテーゼ? 独ZFの新型トランスミッション「9HP」の洗練ぶり」)の9速オートマチックトランスミッション「メディアとして世界初試乗」のリポートから少し間が空いてしまったが、ドイツZF社がこの秋のフランクフルト・モーターショーに展示を予定している駆動系とシャシーシステムの新技術群に関する取材報告の後編をお届けする。

 今回取り上げるのは、日本のメガメディアだけでなく研究者や各所の有識者も「日本が世界に先行している」と信じて疑わない電気自動車の分野において、ドイツ企業の技術者が日本的思考とは異質の方向から考え、開発を進めている事例について。

日本では「永久磁石回転子・同期制御」方式モーターが主流

 日本の技術トレンドとどこが違うのかと言えば、それはクルマを走らせるために用いるモーターの原理そのものにある。

 EV(電気自動車)はもちろんハイブリッド動力についても、日本では「永久磁石回転子・同期制御」方式のモーター(基本原理は同様でも細部の異なる形態がいろいろあり、呼び方も様々なものがあるが)ばかりが使われている。

 つまり、「回転子の外周に永久磁石を並べ、その周囲を取り巻く形でコイル(鉄心に銅線を巻き付けて電流を通すと磁力を発生する。いわゆる電磁石)を数多く配置し、そのコイルに流す電流を回転子の位置に合わせて刻々と制御して、磁力の『吸引』『反発』をちょうど良いタイミングで切り換えつつ、回転する速さと回転力を作ってゆく」モーターである。

 これに対してZFが実用車両のための動力機構として開発を進めているのは、「回転子も鉄心に銅線を巻き付けたコイルで、その周囲を複数のコイルで囲む構造として、外側のコイルに波を描くように変化する電流を順次送ってやることで内外に生ずる磁力をそのまま使って回転させる」という、いわゆる「誘導電動機」である。上の「同期モーター」と対比して「非同期モーター」と言うこともある。

 電動機の原理的形態としては、もう1つ「(ブラシ付き)直流モーター」がある。これは中学校の理科で自作することもある、最も古い電動機の形態だ。回転子は銅線を巻いたコイル(電磁石)で、その外側に永久磁石を極性を逆にして配置する。ここで回転子に電流(直流)を流すと磁力が発生し、外側の永久磁石との間で引き合ってある角度までは回る。ここで電流の向きを逆転させると電磁石の磁極が逆転し、永久磁石と反発し合って回り続ける。その電流の切り換えを回転子の軸に設けた電極と擦れ合うブラシによって行う、という原理だ。単純だが、回転する軸に常にブラシが触れて擦れ合うので寿命や故障、短絡などの問題があり、工業化社会の動力用としてはあまり使われていない。