世界のすべての街灯がオレンジ色であるべきだ。

 イタリア人が恋を語るのが上手なのもこのオレンジ色の街灯が恋人たちの心を和やかに盛り上げてくれるからだし、この街を流れる夜のテヴェレ川がこれほどまでに魅力的なのも、このオレンジ色の街灯を川面に優雅にゆらゆらと映しているからなのだ。

夜のテヴェレ川。むこうにバチカンのサン・ピエトロ大聖堂が見える(筆者撮影、以下同)

 ローマではいつもトラステヴェレ地区に宿をとると決めている。「トラス(tras)」は「~の向こう側に」や「~を越えて」を意味する接頭辞。ということで、トラステヴェレは文字通りローマの中心部からテヴェレ川を渡った左岸(西岸)にある。

 トラステヴェレに行くなら、観光に便利なバスも多く発着するトッレ・アルジェンティーナ広場から出ている「L’otto(ロット)」と呼ばれる路面電車に乗りテヴェレを渡っていく方法がオススメ。

 「永遠の都」を流れるゆったりとした時間の中では、時空の迷子になったつもりで彷徨してみるのがいい。目的地は決めずに、ローマの歴史を肺にいっぱい吸い込みながらどこまでも自由に進んでいく。昼でも夜でも気づいたら3時間、4時間でも歩いていた・・・というのがローマの楽しみ方だ。

 やはりこの夜もふらふらとコロッセオからベネチア広場を経て、終電もとうに終わった路面電車のコースに沿ってテヴェレを渡った。

 週末なら通りにまで溢れ出すほどの多くの若者たちが集い、朝方まで酒を飲み語り合う(イタリア人はとにかくしゃべる。ビール1杯で朝までしゃべる)テヴェレ川沿いの広場だが、平日の夜が一番深いこの時間には、数組の恋人たちと、何本かのビールの空き瓶が淋しく転がっているだけだ。

 宿への道を遠回りしてサンタ・マリア・イン・トラステヴェレ広場に寄ってみた。この広場はトラステヴェレの観光の起点でもあり、周りには人気のレストランやバーが多く軒を連ねている。

トラステヴェレのサン・カリストはローマっ子たちに人気のバールで連日深夜まで賑わう

 ローマっ子たちで毎晩のように賑わうバール、San Calisto(サン・カリスト)では、ついさっきまで饗宴は続いていたのだろう。広場の噴水に腰掛けた僕のところまで、いろいろな酒が混ざり合ったような匂いが、煙草や、それ以外の草の焼けた匂いが漂ってくる。

 土産の玩具を売るアフガニスタン人たちがまだちらほらと商売をしている。この玩具、輪ゴムを使って夜空にビューンと高く飛ばすのだけれど、プロペラがついているのでゆっくり降りてくる。

 しかも本体が発光しているので、大勢の土産物売りがいくつものプロペラを飛ばしているとなかなかの壮観なのだ。こんな夜更けにも、冷やかしついでにひとつふたつ買っていく酔っぱらいの観光客がいるらしい。僕のことだけど。