以上のように、「派閥」の政治的利益はそれぞれ異なるだろうが、唯一共通していることは、今のままでは中国共産党の統治が失われるという強烈な危機意識だ。

 腐敗と権力志向の塊のような薄熙来の失脚は、「派閥」同士の暗闘の結果ではなく、むしろこの党内危機感の生贄になったと見るべきである。

官僚組織の強大化

 続いて組織的要素を検証しよう。筆者が北京に在勤していた2000~2004年頃、共産党関係者がしきりに日本の自民党を研究していた話は以前書いた。しかし、今回の中国共産党の「自民党化」は、共産党幹部が自民党を真似る努力を続けた結果生じたわけではない。

 理由は簡単。中国もようやく近代国家になったからである。

 1949年の建国当時、中国の行政は比較的単純だった。ところが、改革開放政策導入以降は、中国の政治・行政の高度化・専門化が急速に進み、官僚組織という専門家・プロフェッショナル集団が独立して権限、人事、予算を仕切るようになる。

 こうして1990年代終わり頃から中国における政官関係が変化し、共産党における政治家の優位は揺らぎ始めた。

 以前のような政治家の「鶴の一声」で全てが決まった時代は終わり、今や党の専門家と各省庁の官僚集団が発言力を高めつつある。人民解放軍の台頭もこの文脈で理解すべきだろう。

 中国で生まれつつあるこの巨大な中国版「自民党」は、台頭する官僚組織を中心に、「族議員」たる政治家と「業界」たる国有企業・地方組織を巻き込みながら活動し始めている。中国共産党が新たな政治利益共同体として今後ますます影響力を拡大していく可能性は高いだろう。

 もちろん、官僚組織の強大化は近代化の過程でどの国でも経験したことであり、中国も例外ではない。問題は、影響力を拡大しつつある中国の官僚組織を「誰が如何にしてコントロールするか」ということに尽きる。