プーチンが大統領選で当選を果たし、今後の少なくとも6年間のロシアの支配体制が決定した。だが選挙で64%の票を獲得したにもかかわらず、プーチン政権の安定は望めない。

 首都モスクワで半分以下の得票率だったことを考えれば、プーチン体制の足元は不安定だ。「政局は決して落ち着くことはなく、常に新たな問題が発生する」と言われるが、これから6年間、プーチンが盤石の基盤を築けるかは疑問である。

 それは、プーチンが5月7日に大統領に就任して、どのような進路を選ぶのかにかかっている。今のところ詳しい政治方針は明らかではないが、そのあらましは推定できる。

 内政は特に不安定要素が多い。国の経済・社会発展のために政治改革は欠かせない。それを強く求めていたのは、反プーチン派の政治家や運動家たちだった。プーチン新大統領は改革を実行できるだろうか。もしくは以前のように「統制される民主主義」の道を選ぶのか。これはロシアの将来を左右する大きなポイントである。後者の場合、社会の安定は維持できないだろう。

 この数年間、ロシアの社会インフラは改善され、国民の生活水準は高くなった。年金や国家公務員の給料も向上した。これらの事実は、プーチンの当選に大きく寄与した。しかし、これらが実現できたのは石油や天然ガスの輸出価格が値上がりし、国家予算が潤ったからである。これからの6年間も、この恵みを得ることができるのかは疑問視されている。

アメリカ、欧州諸国と異なるプーチンの価値観

 外交の分野でプーチンはどのような政策を取るだろうか。選挙戦の間、プーチンはたびたび外交政策についての所信を述べていた。

 プーチンの外交の原則はプラグマティズム(実用主義、現実主義)である。原則的に特定の思想には依拠せず、特定の国との同盟関係も結ばない。広くあまねく外交を展開し、ロシアの国益にかなう政策を取る。

 外交が国益を追求する一手段であることは常識だが、問題は、どのような価値観に基づいて国益を定義するかである。

 プーチンの価値観は欧米との間に大きな隔たりがある。世界各地の人権問題や反独裁者運動に対する反応も、プーチンは欧米とは異なっている。例えば、独裁者を打倒する中東の民主化運動に疑問を呈し、政権打倒のための「武力行使」を批判する。

 民主化運動を支援する国についても、「外部からの干渉」だとして反対の立場を取る。中東の民主化はロシアの地政学的な立場を弱め、「アラブ諸国からロシア企業を追い払う」ことになるからだと主張している。

 その立場から、プーチンはシリアのアサド政権を支持している。ロシアは欧米だけではなくアラブ国家連盟とも対立し、国連安保理で、シリアに対する国連安保理決議への拒否権を中国とともに行使した。国連事務総長は憤慨してロシアと中国を名指しで批判していた。