このように現場が品質向上努力を怠っているのではなく、がんじがらめの規則や言葉の壁に行く手を阻まれてしまっているのである。

 そのうえコストとしか見なされず、経営効率の名の下に削減され続けた生産現場は疲弊し、その自発性や士気に頼ることは不可能だろう。

 健気にもささやかな改善活動を行おうとしても、うまく指導できる先輩がいなかったり、残業として認められないのでは、せっかくの機運がかけ声倒れに終わってしまう。

 そんな環境下で「改善すらまともにできないのか!」と叱る経営者やコンサルタントがいるとすれば、認識不足以外の何物でもない。

 デミング賞に代表されるTQMに対する栄誉が、日本品質の表面的な権威付けだけに利用されるプロパガンダに過ぎないのだとしたら、非常に残念なことだ。

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医療や介護の現場にも品質改善が必要だ〔AFPBB News

 今後内需を牽引する期待が高いサービス業でもしかり。もとより厳しい労務環境もあり、積極的な業務品質改善が行いにくいことに変わりはない。

 特に医療、介護や金融といった規制業種においてはIT化によって作業マニュアルの充実が図られた一方で、急速に進む顧客ニーズの多様化や規制強化に人材育成が追いつかない。

 ついには「作業者に考えさせることすらムダ」という定義まで登場し、徹底した自動化や機械化がまかり通るようになってしまった。

 とある銀行の支店に入った際に、受付窓口には誰もおらずコンピューター端末だけが居並ぶ様子を見て寒々しいものを感じたことがある。これが究極のサービス業の姿ということなのだろうか?

 ヒトを中心に業務を行うサービス業の現場で業務改善を進めるためには、経営者の思い切った人材への投資目標がないと、一向に改善活動がはかどらない。しかし経済停滞が続く日本国内で、このような長期的人材投資の目論み自体が立てにくいことも事実だ。

 ところが日本の外に目を向けてみると、かつての日本品質のルーツを脈々と受け継いだ改善活動が花盛りといった状況が映る。

 例えば品質マネジメント規格ISO9000シリーズなどを規定するISO(国際標準化機構)は、2011年9月に経営改革手法の1つである「シックスシグマ(Six Sigma)」を改善手法の国際規格として正式に採用することを発表し、ISO13053規格書として制定、公示した。