「中国の牛乳? とんでもない!」と、ついアレルギー反応を示してしまうのは筆者だけではないだろう。

 中国産牛乳のメラミン混入事件は2008年に遡るが、筆者に限らず中国都市部の消費者はいまだに牛乳の安全性について疑心暗鬼である。

 そんな消費者心理を裏付けるのが、売り場の変化だ。

 中国の牛乳3大ブランドと言えば、「蒙牛」「光明」「伊利」。中でも「蒙牛ブランド」は人気商品で、事件以前は消費者が箱単位でまとめ買いするのが当たり前だった。だが、そんな大量買いの光景はすっかり影を潜めた。

 富裕層の中には中国産を敬遠し、わざわざネットショッピングでドイツから牛乳を取り寄せる者もいる。また、上海で展開するスーパー、仏カルフールの売り場には数十社の豆乳メーカーの商品がズラリと並ぶ。消費者が牛乳の代わりに豆乳を求めるようになってきたのだ。

 一方で、今まで見たこともない販売方法も台頭してきた。豪華な化粧箱に詰められた「贈答用牛乳」だ。上海や北京では、消費者の「安心・安全」へのニーズの高まりを受け、品質を保証した超高級牛乳が出回るようになった。

「自社牧場の原乳のみ使用」に飛びつく消費者

 この「高級牛乳市場」で、存在感を高めているのが日系乳業メーカーだ。

 中国の高級牛乳市場の火付け役となったのは、実はアサヒビールである。スーパーの冷蔵ケースに、「唯品純牛乳」ブランドのチルド牛乳(製造から販売まで低温で管理した牛乳)が並んでいる。価格は、1リットル入りが約25元(約300円)。これは一般商品のおよそ3倍に相当し、日本のナショナルブランドよりもさらに高い値段だ。しかし、これが売れている。

 富裕層を中心とした消費者が唯品純牛乳を手に取る決め手は、パッケージに刻まれた「自社牧場の原乳のみ使用」の文言にある。

 振り返ればメラミン事件は、原乳を提供する酪農家が一定の品質を維持できなかったことで発生した。酪農家は基準値を満たそうとするあまり、原乳にメラミンを混入させることで故意に蛋白質含有量を引き上げたのだった。

 中国では原乳が不足しており、乳業メーカーは原乳の確保に躍起になっている。その中で原乳を自前で確保したアサヒビールの牛乳が高く評価されている。