世界的に広がりを見せている債務危機は短期的に収束する気配はない。その中で中国経済はこれまでの高成長から、一変して成長がペースダウンする展開になっている。2011年の成長率(実質GDP伸び率)はかろうじて9%を維持できそうだが、第4四半期の成長率は9%を割る可能性さえある。
なぜ中国経済の成長が減速しているのか。その要因として次の諸点を指摘することができる。
第1に、2010年までの五輪や万博といった国際イベント関連の投資によって牽引されてきた経済成長が終焉したことである。
第2に、世界経済の不況が予想以上長引いていることである。欧米諸国を中心とする先進国の経済は債務危機の影響により軒並み減速しており、しかも目下の不況と債務危機は短期的に収束する見込みはない。
第3に、住宅バブルとインフレーションをコントロールする政策当局の金融引き締め政策が、経済成長率を低下させている。
なんとしてでも防がなければならない「失速」
共産党にとって高成長を維持することは社会の安定を図る重要な手段になっている。中国政府の発表によれば、近年、毎年10万件もの集団的暴動事件が起きていると言われている。1回あたりの参加人数は徐々に増え、暴動の規模が拡大している。経済成長が減速すると、社会不安をますます助長することになる。
2012年に成長率がこのまま減速していった場合、瞬間的に8%を割る恐れが出てくる。経済成長率が8%を割るようになれば、様々な弊害が出てくることが考えられる。
まず、失業問題が深刻化するだろう。そして、政府の経済政策の失敗への批判が強まり、共産党の求心力が低下する。それに加え、これまで中国経済の成長を期待して中国に流入していた投資または投機目的の外貨がキャピタルフライト(資本逃避)する恐れがある。
なによりも、2012年は政権交代の年である。胡錦濤政権の退陣にあたって、そこそこの成長を維持する花道が必要である。したがって政府としては、いかなる経済環境でもこのタイミングで経済成長が急速に減速することは避けなければならない。
そこで2011年12月に、共産党中央の経済工作会議が開かれ、バブルのコントロールとインフレの引き締めに重点が置かれている経済政策を見直し、成長の方向へシフトすることが「閣議決定」された。すなわち、「社会の安定を維持するために、経済成長をできるだけ追求する」ということのようだ。