松谷明彦(下)憲法改正で国の借金を禁止~財政再建のウルトラC

 少子高齢化が進み、日本は本格的な人口減少局面を迎えた。地方では過疎化が加速し、都市との経済格差が一段と拡大している。政策研究大学院大学の松谷明彦教授(元大蔵省大臣官房審議官)は、ベストセラーとなった『「人口減少経済」の新しい公式』(日経ビジネス人文庫)や『2020年の日本人──人口減少時代をどう生きる』(日本経済新聞出版社)などを通じて、「縮む社会」の到来に警鐘を鳴らし続けてきた。

 しかし自民党政権は未曽有の人口減少に対して有効な処方箋を描けず、民主党の鳩山政権も実効性を伴う成長戦略を示せていない。JBpressはこのほど松谷教授にインタビューを行い、日本再生の切り札として期待される「人口流動」に必要な政策について聞いた。インタビューの後半は2010年4月27日に公開する。(2010年4月8日取材、前田せいめい撮影)

 JBpress 著書『人口流動の地方再生学』(日本経済新聞出版社)では「人口流動が日本を救う」と提唱しているが、その理由を聞きたい。

松谷明彦氏/前田せいめい撮影松谷明彦氏(まつたに・あきひこ)
1945年疎開先の鳥取県生まれ 70年東大経卒、大蔵省入省 主計局主計官や証券局証券業務課長、大臣官房審議官などを経て97年から政策研究大学院大学教授 専門はマクロ経済学、社会基盤学、財政学 主な著書に『「人口減少経済」の新しい公式』(日経ビジネス人文庫)『2020年の日本人──人口減少時代をどう生きる』(日本経済新聞出版社)など

 松谷明彦教授 なぜ日本の地方がダメなのかを考えると、1つは日本の経済活動があまりにも大都市に偏っているからだ。重厚長大型でも知識先端型でもモノづくりの産業は規模の利益を追求するため、どの国でも大都市にある程度集中するのは止むを得ない。

 しかし日本の場合、消費が大都市でしか行われないのが最大の問題だ。大都市に集中する人口が大都市の中でしか消費しない。毎朝、家を出て会社に行き、アフター5にその近くで飲んで帰る。旅行といえば、せいぜい家族で盆暮れに田舎へ帰省するか、ピンポイントで観光地に出掛けてすぐ帰って来る。

 つまり日常的には人口の3分の2ぐらいは、東京、大阪、名古屋などの大都市圏の中でしか動かず、そこでしか消費していない。

 一方、欧州などでは大都市に負けず劣らず、中小都市や農村部で消費が行われている。それは大都市の人が中小都市や農村部に出掛け、そこで消費するから。人が国中を動き回っているわけだ。

 フランス人やドイツ人は平日でも会社帰りに車で100キロぐらい移動する。大事なのは観光地に行くわけではなく、知り合いに会いに行くということ。親戚、旅先での知り合い、学校時代の友人・・・。そこでコミュニティーの準構成員のようになり、食事をしてから大都市の自宅に帰り、翌日は平気で早朝から仕事に出る。人を知ることに貪欲であり、旅先で親しくなると「今度日本に行ったら、あなたの家に行きたい」などと声を掛けてくる。

 観光地ではなく人を訪ねて移動するから、消費が国土に万遍なく広がる。私はこれを「日常的」人口流動と呼んでいる。欧州社会では、狩猟民族の特性かもしれないが、都市の人も地方の人も入り乱れて様々なネットワークを構築している。

米シカゴがお手本、ライフステージごとに人口流動

 ━━ 「日常的」以外の人口流動とは何か。

 松谷氏 もう1つが「ライフステージごとの」人口流動だ。日本の地方は高齢化して人口がどんどん減っている。自治体は「若者に定住してもらおう」「子育て環境を整えよう」と言うが、ほとんど来てくれない。若いカップルに来てもらいたければ、その最大関心事である子どものための「良い学校」をつくらなければならない。

 米国のシカゴを見ると、極端に言えば街の中心部には若者と高齢者しか住んでいない。結婚して子供を持つ世帯は主に郊外に住んでいるからだ。そこは良い住宅地となり、良い学校ができる。逆にお年寄りのための介護施設はほとんどない。若い時はシカゴ中心部に住み、その後は郊外に移り、年を取って公的介護が必要になると再び中心部へ戻ってくる。