松谷明彦(上)「日本を救う『人口流動』 地域社会は蘇る~金融機能は大阪へ移転

 日本の財政状況は先進国で最悪になった。国の借金は900兆円に達し、対GDP(国内総生産)比率では危機に直面するギリシャをはるかに上回る。1400兆円規模の個人金融資産が巨額の財政赤字を穴埋めしてきたが、高齢化の進展でそれも先細りを避けられない。

 果たして財政再建にウルトラCはあるのか。政策研究大学院大学の松谷明彦教授(元大蔵省大臣官房審議官)はJBpressのインタビューで、膨らみ続ける国債残高は「もはや返せる水準ではない」と断言した。その上でかつての英国に倣い、「コンソル公債」を発行して国債元本の返済を半永久的に先送りするしかないと指摘。それだけでは日本の信用力が凋落してしまうから、憲法を改正して新たな国の借金を禁止すべきだと提唱している。(2010年4月8日取材、前田せいめい撮影)

 JBpress 日本は財政再建にどう取り組むべきか。

松谷明彦氏/前田せいめい撮影松谷明彦氏(まつたに・あきひこ)
1945年疎開先の鳥取県生まれ 70年東大経卒、大蔵省入省 主計局主計官や証券局証券業務課長、大臣官房審議官などを経て97年から政策研究大学院大学教授 専門はマクロ経済学、社会基盤学、財政学 主な著書に『「人口減少経済」の新しい公式』(日経ビジネス人文庫)『2020年の日本人──人口減少時代をどう生きる』(日本経済新聞出版社)など

 松谷明彦教授 今の財政の問題を解決するため、増収策つまり税負担を引き上げようとするのは大きな間違い。それで解決するわけがない。

 戦後、日本は福祉国家を目指し、国民1人当たりの財政支出はずっと拡大してきた。ところが、増税したことがない。1955~2005年までの50年間で1人当たりの財政支出は国と地方合計でおよそ10倍に拡大した。にもかかわらず、その間に増税したのはたった1回だけだ。

 なぜ、増税しないのに1人当たりの財政支出を増やせたのか。それは、若い人口すなわち納税者の割合が増えたからだ。それで増税せずに済んだ。また、経済規模の拡大に伴う自然増収にも一理ある。歳出が伸びても、歳入も伸びていたから財政のバランスが取れていた。

 しかし、これから起こるのは歳入の横ばい。高齢化に伴って働く人の割合がどんどん減っていくからだ。ロボットなど技術の進歩で1人当たりの生産性が上昇するため、1人当たりの国民所得は下がることはないが、概ね横ばいになる。

 1人当たりの国民所得が増えていれば、税率を変えなくても税収は増える。これが横ばいになると何が起こるのか。増税が1回で済まず、毎年のように必要になってしまうのだ。これは完全な財政破綻を招くから、現実的な選択肢にはなり得ない。

 では、どうしたらよいのか。歳出増加の傾きを落とさなくてはならない。それなら1回の増税で済む。まずこれを行い、その上で政府の規模をどうするか議論すればよい。

 今後、1人当たりの財政支出は放っておくと増え続ける。なぜなら、財政支出が必要なのは若い人ではなく、お年寄りの世代だから。それなのに政治家はバラマキを行っている。これが最大の問題と言えるだろう。

相当な痛みを伴うが、1人当たりの歳出削減が不可欠

 ━━ 歳出増加の角度を落とすとは、どういうことか。

人口減少社会、国民1人当たりの歳出削減が不可避に

 松谷氏 お年寄りの割合が増えても、1人当たりの財政支出を伸びなくすれば、人口の減少とともに財政支出は減少する。それも比例的に減少するような世界に持っていくわけで、これには相当な痛みを伴う。

 今はお年寄りの割合が増えるに従い、1人当たりの財政支出も増える仕組みになっている。それを税収で賄い続けることは絶対に不可能。プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化という生易しいものではなく、真に抜本的な改革が必要だ。