米国でのトヨタ自動車の一連のリコール騒動は、日系メーカー車の最大の売りである「品質」というブランドに大きな傷を付けた。
しかし、どんな事業にも失敗はつきものだ。トヨタは失ったものも大きかったが、多くの教訓も得たはずだ。「世界一」と賞賛されてきた日本の「モノづくりの底力」は、いまだ健在であり、中長期的には、日系自動車メーカーとサプライヤーの競争力が失速することを心配する必要はない。
さらに自動車各社は、世界的な新車市場の回復をにらみ、新興国を中心に新規需要の開拓に力を入れている。日本の国内仕様車とは異なる低価格車の投入も積極的に進めており、その成果はじわじわと出てくるだろう。
心配なのは海外ではない。むしろ日本国内での自動車産業の衰退だ。少子高齢化の進行や若者の自動車離れの影響で新車市場が縮小していくことは、もう何年も前から予想されていたこと。しかし、どのメーカーも有効な手立てを打てずにいる。
このままでは、日本は自動車先進国としての最後の砦を失うことになるのではないか──。経済産業省がまとめた「次世代自動車戦略2010」は、そんな不安心理を抱えた自動車業界への処方箋となるだろうか。
EV普及に力点を置く経産省の次世代戦略
「戦略2010」は専門研究会での議論を経て、日本の自動車産業が進むべき2030年までの道標として、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などの次世代自動車の開発と普及、そのためのインフラ整備について、政府としての長期目標を示したものだ。
EV技術のカギとなるバッテリー開発に力を入れる方針と共に、まずは2020年にEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売比率を乗用車全体の15~20%にまで引き上げる目標を掲げた。その時点のEV、PHEVのグローバルの販売構成比は推定5%強なので、15~20%は非常に意欲的な目標値と言える。
日本の国内新車販売台数は、2001年度の590万台から、2009年度の490万台弱へと10年足らずで100万台も減少した。もちろん、2008年秋の「リーマン・ショック」といった不測の事態の影響も否定できないが、日本自動車販売協会連合会(自販連)は、リーマン・ショック以前に策定した長期ビジョンでも「400万台に落ち込むことが考えられる」と見通しており、市場縮小のペースが若干、早まっただけに過ぎない。
生産の現地化が進んでいるため、国内生産台数の落ち込みも激しい。2009年の国内生産台数は前年比31.5%減の793万台で、生命線とされている1000万台を大きく割り込んだ。輸出モデルの現地生産移管は今後も一段と進むことは確実で、国内生産の維持は国内新車市場の回復次第ということになる。
これからは、国内新工場の増設などは夢のような話で、ダブつき始めた能力の整理を急がなければならない状況だ。ホンダが昨年、主要サプライヤーに「国内生産が30%減少しても利益を確保可能な経営体制を整えてほしい」と要請したことは、その象徴的な例である。