G7各国について筆者は、今般の金融危機に際してマクロ経済政策(金融政策と財政政策)をどの程度発動したのかを、見やすい数字の形で比較したことがある。最近のマーケット動向を考える一助にすべく、この比較を再度用いることにしたい。

 使用したのは、金融政策については2007年以降のピークからボトムまでの主要政策金利の引き下げ幅。財政政策については、経済協力開発機構(OECD)の国際比較データに基づいた、2007年から2010年までの一般政府財政収支対名目GDP比の悪化幅である。G7のうちドイツ、フランス、イタリアについては、欧州通貨統合の参加国であり、金融政策が欧州中央銀行(ECB)に一元化されているため、ユーロ圏として一まとめにした。また、米国の足元の主要政策金利水準については、フェデラルファンド翌日物金利の誘導レンジ0~0.25%の中心点である0.125%を計算に用いた。結果は、以下のようなものである(数字はすべて%ポイント)。

米国:利下げ5.125%ポイント+財政収支悪化7.9%ポイント=13.025%ポイント
ユーロ圏:利下げ3.25%ポイント+財政収支悪化6.1%ポイント=9.35%ポイント
日本:利下げ0.4%ポイント+財政収支悪化5.7%ポイント=6.1%ポイント
英国:利下げ5.25%ポイント+財政収支悪化10.6%ポイント=15.85%ポイント
カナダ:利下げ4.25%ポイント+財政収支悪化6.8%ポイント=11.05ポイント

 上記の比較で、マクロ経済政策の発動度合いが最も大きいのは、英国である。金融、財政ともに数字は最大。このことが外為市場における最近の英ポンド下落につながっている。

 英国の場合、金融危機前にはいわゆる高金利通貨国であったため、利下げ余地が大きかったという事情もある。だが、0.5%まで利下げしても金融緩和が足りず、イングランド銀行(BOE)は資産購入プログラムを導入して量的緩和を積み重ねた。2月のMPC(金融政策委員会)はプログラムの枠を2000億ポンドで据え置き、拡大を休止していったん様子見に転じる決定を下した。だが、英国の経済状況やBOEインフレ報告の内容を見ると、枠の拡大が今後再開される可能性が十分にある。米国では2月に連邦準備理事会(FRB)がプライマリークレジット金利(公定歩合)を0.25%引き上げるなど、危機対応の緊急措置を徐々に解除する「出口」戦略を展開しているが、英国の場合はそうした動きがなかなか出てきにくい。さらに言えば、英国のソブリン格付け引き下げを回避するため、総選挙後の政権の枠組み如何にかかわらず、財政政策は遅かれ早かれ緊縮方向に動くことになるわけで(後述)、そのことが景気を下押しする。財政緊縮の影響を緩和するためには、金融緩和の継続が望ましい。

 このように、金融緩和の長期化が避けられそうにないという側面から、英ポンドはドルやユーロに対して売られやすくなっている。

 さらに、財政政策の面でも、英国の情勢は予断を許さない。英国のソブリン格付けについては、スタンダード&プアーズ(S&P)が昨年5月、現在の格付けであるAAAの見通しについて、「安定的」から「ネガティブ」に引き下げるという動きを取った。5月にも行われる総選挙の後に誕生する政権が中期的に英国の債務を減らすことができないと判断すれば格付けを引き下げる、という警告である。