香りは上品。形も美しい。マツタケは、日本の秋味をつくりだす代表的な食材の1つだ。そのマツタケの生産量が、日本人の“里山ばなれ”やマツ枯れ拡大などのために減っている。
日本の林で再びマツタケを増やすには「人工栽培」の方法を確立することが決め手となる。
後篇では、茨城県林業技術研究センターの小林久泰氏に、同センターのマツタケ人工栽培の研究の道のりを聞く。長く険しい道のりを、研究者たちは今なお歩き続けている。
マツタケの人工栽培化の研究は、苦闘と挫折の連続だった。マツタケの世界に人の手を加えるのは、とても難しいことなのだ。
マツタケの人工栽培はなぜ難しいのか。
主な理由に挙げられるのは、マツタケは生きている木の根でしか成長しないということだ。シイタケやエノキダケは死んだ木も自分たちの棲み処にする。対して、マツタケは、マツが光合成でつくりだす栄養をつねに受けながら生きる。マツとマツタケという、生きているものどうしの関係の中に、人が手を入れて成長を促すのは簡単なことではない。
100年以上になるマツタケ研究の歴史があるにもかかわらず、人工栽培の方法が確立されていないという点からも、その難しさがうかがえる。
苗づくり、植え付け、菌の増殖という3つのステップ
至難の業のマツタケ人工栽培に挑み続けている研究機関は多い。その1つが、茨城県林業技術センターだ。1991年に「きのこ特産技術センター」を設置し、マツタケの人工栽培のための研究を本格化させた。今は、97年から20年間にわたる長い計画研究の最中にある。
同センターは、マツタケの人工栽培について、明確なステップを掲げている。それは、「苗づくり」「植え付け」「菌の増殖」という3つからなる。
まず、マツタケの菌が感染したマツの苗を人工的につくる。そして、それをマツ林に植えてマツタケ菌を定着させる。最終的に、マツ林に「シロ」とよばれる“マツタケ安住の地”をつくりだす。これが3つのステップだ。