人口が減り続け、高齢化が進む典型的な地方都市。人が集まる施設も、商店街も近くにはなく、日が暮れれば辺りは真っ暗──。

菓匠Shimizu
〒396-0011
長野県伊那市上牧区清水町6608

 とても商売に向いているとは言えない環境にありながら、連日多くの客でにぎわい、売り上げを伸ばしている繁盛店がある。長野県伊那市にある「菓匠Shimizu」という洋菓子店がそれだ。

 ある本を読んで、菓匠Shimizuの存在を知った。経営者やスポーツ選手向けのメンタルトレーナーとして知られる西田文郎さんが執筆した『「最幸の法則」』という本である(本の紹介記事はこちら)。

 その本の中で、菓匠Shimizuが1年に1回実施している「夢ケーキの日」というイベントが紹介されていた。全国の小学生以下の子供に、自分の夢を絵に描いて送ってもらう。そして、送られてきた絵を基にケーキを作って、子供たちに無料でプレゼントするのだ。

 スタートしたのは2006年。最初の年に配ったケーキは9個だった。それが翌年には50個、翌々年には500個と増え続け、2009年10月には、なんと850個のオリジナルケーキを作って配った。ケーキを受け取る親子が全国からやって来て、店の前に1000人以上の行列ができたという。

イベントのきっかけは隣町で起きた事件

 それにしても、850個という数は尋常ではない。小さなショートケーキではなく、立派なデコレーションケーキを作るのだ。子供の絵を基に一つひとつ違うケーキを作るのだから、大変な作業だ。おまけにそれを無料で配るのである。

 夢ケーキの日を始めたのは、3代目の店主、清水慎一さんだ。『「最幸の法則」』によれば、清水さんが、テレビであるニュースを見たのがきっかけだったという。

 隣町で男子高校生が父親をナタで殺すという事件が起きた。清水さんはそのニュースにショックを受け、「世の中で二度とそんなことが起きないように、家族で夢を共有してほしい」という思いで夢ケーキの日を始めたのだという。