中国人民銀行が2010年1月12日、預金準備率を引き上げた。資産バブルを懸念した「金融引き締め」との印象を受けるだろうが、本当のところはどうなのか。
通貨・人民元をドルにペッグした中国では、金融政策の自由度が極めて乏しい。準備率引き上げはドル買い・元売りの為替介入で発生した余剰資金を吸収する効果しかなく、マクロ政策上の「引き締め」には相当しないことに注意が必要だ。経済大国の道を歩み、日本にとって重要性を増す中国の金融政策を実務的な観点から解説しよう。
固定相場は金融政策の自由度を制限する
為替をほぼ固定した状態での金融政策がいかなるものか考えてみたい。
例えば、日本が1ドル=100円のドルペッグ制を採用したとする。日米間で経済情勢に差異がなく、金利水準も概ね同じと仮定すれば、金利差による両国間の資金移動は生じづらい。
その後、日本の景気が良くなり、日銀が金利を引き上げると、金利の低い米国から日本にお金が流れ込む。為替リスクがない固定相場制の下では、投機資金が流入しやすくなる。
この時、日本が採ることができる選択肢は、(1)固定相場を止める (2)資本流入を規制する──の2つだ。
(1)を選ぶと、為替は円高に振れる。ただ、外需依存の日本は輸出産業を保護するために1ドル=100円は死守したい。しかし、景気は過熱気味であり、金融政策は利上げを必要としている。
そこで(2)の出番である。利上げしても投機資金が流れ込まないよう規制で遮断するのだ。この規制に穴があってはいけない。金利差が拡大するほど投機資金の流入圧力は増し、隙間から染み出すからだ。利上げするには厳密な資本規制が必要だ。
先進国の成熟した開放経済では、為替は変動し、金融政策は制約なく動ける。国内外の資本移動もスムーズ。「為替」「金融政策」「資本移動」のいずれも自由だ。
為替を固定化すると、前述のように金融政策の自由度を確保するために資本移動の規制が必要となる。逆説的には、資本移動を許せば金融政策は為替固定先の金利に合わせるしかなく、自由は喪失する。固定相場制の下で、金融政策と資本移動の自由が両立しないのは「国際金融のトリレンマ」として知られる。