菅直人副総理・国家戦略・経済財政相は11月27日のテレビ出演で、「デフレも激しくなっているし、円高で株価も下がる。一方で財政赤字もある。トータルでどう次の成長戦略を考えるかが鳩山政権の役割だ」と述べた。この発言で言及されているテーマは、「デフレ(deflation)」「ドル安(dollar´s depreciation)」、それにドル安円高・株安に拍車をかけた「ドバイ(Dubai)ショック」「債務(debt)」といったところだろう。英語の頭文字を並べてみると、「4つのD」ということになる。これらのうち「債務」を除く3つが、債券相場にとって追い風になっている。直近の状況を整理しておきたい。

 まず、一番ホットな材料である「ドバイ・ショック」と「ドル安(円高)」について。

 11月27日の米国市場では、感謝祭休暇の谷間で薄商いとなる中、「ドバイ・ショック」の波及で、ニューヨークダウ工業株30種平均は一時230ドルを超す下げ幅になった。しかし、米金融機関へのドバイ問題の悪影響は小さいという見方が広がるなどして落ち着きを取り戻し、その後は下げ幅を縮める展開。終値は前日比▲154.48ドルの10,309.92ドル。為替のドル安円高も一服した。米長期金利はさらに低下。特に米2年債利回りは一時0.60%まで低下する場面があった(昨年12月17日以来の低水準)。株安とリスク回避志向の強まりを受けた「質への逃避」、多くの米金融機関の決算期末である年末をにらんだ安全資産への資金流入に加え、日本の通貨当局がレートチェックを実施したとの報を受けて、円売り介入が仮に実施された場合には日本による外貨準備運用のための米国債購入が増えるだろうという思惑が出ていたという。

 今回の「ドバイ・ショック」と円高・株安については、11月27日夕刻に朝日新聞の取材に応じた筆者のコメントが翌28日朝刊に掲載されたので、引用しておきたい。

 「ドバイ・ショックはリーマン・ショックから1年を経て起きた象徴的な出来事だ。落ち着いてきたように見えていた国際金融をめぐる問題が根深く残っていることを、多くの人が再認識するきっかけになったのではないか。米国の株安を招く可能性もあり、先行きは厳しい。ドバイ問題で大きな影響を受けるのは欧州の金融機関だ。ユーロを売って円を買う動きに拍車がかかり、対ドルでも円買い圧力を強める。そもそも、各国当局が米国の経常収支赤字と新興国や日本の黒字がともに拡大していく『世界的な不均衡』の是正を掲げているほか、米国の利上げが当分視野に入ってこないため、ドル売りはすでに構造問題となっている。ここ数日の急激な円高は、一部の投資家が仕掛けた動きだが、いったん値を戻した後、再び円高が進むだろう。当面は1ドル=80円に近いところで推移することになるのではないか。輸出依存度の高い日本経済への悪影響は必至だ。製造業は中間決算時に、為替の見通しを若干円高寄りに修正しているが、それよりもさらに円高が進んでいる。日経平均株価が9000円台を維持しているのが不思議なぐらいだ。『二番底』は避けられない。だが、為替介入による円高是正は難しい。各国が不均衡是正や保護主義反対で一致しているからだ。日本としては小手先の対応よりも、慢性的なデフレ構造の修正に向けて内需拡大に本腰を入れるべきだ。人口減少が日本経済の根底にあるのだから、少子化対策や移民対策などに取り組み、購買力を増やす必要がある」

 昨年10月に筆者は、大きなバブルが米国で2つ崩壊した後の経済・マーケットを見ていく上で重要となる「6つのポイント」を示した(2008年10月23日作成 「『20年バブル』崩壊」参照)。その際、第1のポイントとして指摘したのが、「グローバリゼーションおよび証券化を通じて世界中にリスクが拡散しており、『集中治療』が困難であるため、今回の金融危機・信用不安は長期化・拡大・深化する」という点だった。

 1990年代の日本の不良債権問題と、今回のグローバルな信用危機との違いのうち、主なものを2つだけ挙げるとすれば、(1)リスクが今回は国境を越えて広く分散していること、および、(2)危機の震源地である米国内ではバランスシート調整の主役が家計であることからリスクが広く薄く分散していることである。後者は、米国の地方銀行が120を超える数で経営破綻している上に、米連邦預金保険公社(FDIC)が発表している問題銀行の数が急増を続けていることに、典型的に示されている。そして、前者をあらためて象徴的に示したのが今回の「ドバイ・ショック」だ、と位置付けることができるだろう。

 次に、「デフレ」について。

 政府がデフレ宣言を行った後も、値下げの動きが断続的に出てきている。