縁あって JBpress のコラムを担当することになった。浅学非才の筆者がオピニオン欄を張るのは畏れ多い気もするが、「日本のマスメディア界に風穴をあけたい」という日本ビジネスプレスの気概に賛同し、お引き受けした次第だ。
さてこのコラムでは、「しっかりしろ日本、日本人!」という観点から海外の情勢や国内の事情を論じたい。そういう意味で、11月4日の米大統領選の結果が日本に及ぼす影響は、本コラムを始めるに当たり、格好の題材となる。なぜなら、今の日本は国際関係において先の戦争以来の難しい局面を迎えつつあるからだ。
2008年の米大統領選は民主党のバラク・オバマ上院議員の圧勝に終わった。8年にわたるブッシュ政権への反発から「変革」を求める機運が高まった側面を否定できないものの、米国民の圧倒的多数が有色人種の大統領を初めて選んだことは、リンカーン大統領による奴隷解放宣言、キング牧師の主導した公民権運動と並ぶ歴史的な出来事だと思う。また、敗北の結果を粛々と受け容れ、オバマ氏を祝福し、国民に団結を呼びかけたジョン・マケイン上院議員の姿には、米国という国の懐の深さと政治の成熟を改めて感じた。
しかし筆者が主張したいのは、米国の民主政治の素晴らしさなどではない。米国の選挙は米国の問題であり、日本人にとって重要なのは来るべきオバマ政権がわが国にどのような意味を持つかということだ。この点を我々は冷静に考え、実現すべき目標をしっかり据えたうえで行動する必要がある。「日本にある町と名前が同じだから、オバマ氏に大統領になってほしい」などと言っている余裕はない。
賢者は歴史に学ぶ
当然ながら、注目されるのは新政権のアジア政策と、その担い手が誰になるかだろう。また、米国発の金融危機で世界同時不況の恐れが出てきている点を考えると、財務長官はじめ経済チームの陣容や対外経済政策の行方も気になる。いずれも人選はこれからであり、現段階で断定的なことは言えないが、ある程度の方向性は見える。
その理由は2つ。1つはブッシュ政権が第2期に入って以降、既に相当な政策転換をしているから。そしてもう1つは、同じような現象が歴史上の事実に見られるからだ。特に中長期の地政学的な流れを見極めるに当たり、後者の視点はもっと重視されるべきだと思う。19世紀ドイツの鉄血宰相ビスマルクがまさに指摘したように、「賢者は歴史に学ぶ」べきなのだ。
例えば、対北朝鮮政策。かつては「悪の枢軸」呼ばわりした独裁国家に対し、既にブッシュ政権の段階で米国は宥和路線に転じた。これについては、米国にとって中東に比べて北東アジアの優先順位が低いという事情が勿論大きい。だが、「成果を得たい」「歴史に名を残したい」という米政権側の思惑が、過剰としか思えない譲歩につながっている側面も否定できない。歴史と言わずとも、末期のビル・クリントン政権が常軌を逸し、北朝鮮との合意に向けて突っ走った事実を想起すれば理解できよう。
また、米国は良くも悪くも民主国家である。政権は世論を常に気にし、時にはその支持を得るために、外交政策を打ちだすこともある。日露戦争終結では日本に好意的な形で調停に乗り出した米国が、戦争後まもなく反日的になった背景には、人種の違いを根拠とした米国民の対日感情の悪化が存在した。
オバマ新政権は「変革」をスローガンに対話外交を謳うだろう。米朝直接対話による事態の打開にも前向きだ。一方、日本は本質的には北朝鮮との2国間問題である拉致問題の解決まで、米国の力に全面依存している。「変革」を目に見える形にしたいオバマ次期政権に対し、どのようにして自らの立場への理解を求めていくだろうか。