早い段階での金融引き締めを思惑的に材料にし始めた市場に対して、10月22~23日に、各国中央銀行トップらが否定的なメッセージを発する場面が目立った。市場の「勇み足」を、政策当局者側がいわば牽制しようとしている構図だと言えるだろう。
カナダ銀行のカーニー総裁は地元テレビで22日、「政策金利決定を前に、われわれが来年6月まで金利を据え置く方針を示さない可能性があるとの観測が一部で浮上した」ものの、それは「的外れ」である、との見方を示した。インフレ目標2%を達成するには、現時点では政策金利(翌日物金利誘導水準中心値)を過去最低水準である年0.25%で据え置くのが妥当であるとして、10年4-6月期末までと期限を明示した「時間軸」はこのまま維持する方針を確認した。
ウェーバー独連銀総裁は22日、「労働市場の悪化や景気後退によって銀行のバランスシートに悪影響が出る」ことなど「重大な下振れリスクがある」ので、「現時点で『出口戦略』を急いで行う必要はない」、とあらためて言明した。
ポルトガル中央銀行のコンスタンシオ総裁は23日、「異例の措置を解除する時期は世界経済にとってリスクの1つだ。早計に撤回すれば、新たな景気後退につながる可能性がある」「危機はまだ終わっていない。現在始まっている回復の底堅さや範囲については多くの不透明感がある。予想はどれも、緩やかで非常に弱い回復を指し示している」と述べた。
こうした現役の中央銀行マン以外からも、今後の金融政策に関連して、時期尚早の引き締め転換に否定的なコメントが相次いでいる。
元米連邦準備理事会(FRB)金融政策局長で、現在はアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)で研究員を務めるラインハート氏は22日にニューヨークで行った講演で、「早めに出口に向かうことが最大のリスクだ」と指摘した。同氏は、FRBは時期尚早な行動を求める圧力をかわしながら長期的な政策意思を明確に伝えることの重要性を認識すべきだ、とした(ブルームバーグ)。
タイのゴーン財務相は23日、政策金利の引き上げは最も早くても10年末までは行われないと発言した。市場では2010年上半期に利上げが実施されるとの見方が大勢だという(ロイター)。
そうした中で、筆者が最も強い印象を受けたのは、イングランド銀行(BOE)金融政策委員会のポーゼン委員による、次のようなコメントである。
「(委員らが)非常に慎重であるのは、重大な見極めが関係しているためだ。予断を許さない状況だからとか、不透明という理由ではなく、重大な過ちを犯したくないためだ。だからこそ、金融政策委員会は非常に慎重な姿勢を取っている」(10月23日 BBCラジオ・スコットランド放送のインタビュー)