10月19日より、新型インフルエンザのワクチン接種が始まりました。まずは医療従事者への優先接種からです。
ワクチンの接種回数は1回です。ワクチン接種の開始が3日後に迫った10月16日に、厚生労働省がワクチン接種回数を2回から1回へと方針変更したのです。実施直前の方針転換だったので、現場は混乱に陥りました。
また、1回接種だと抗体価が10ポイント低くなります。「本当にそれで大丈夫なのか」という論点も十分に解決されたとは言えませんでした。その状況下での決定に、現場からは疑問の声が沸き起こりました。
10mlバイアルを使うことの問題点
新型インフルエンザワクチンの問題点に「10ml(ミリリットル)バイアル」(バイアルとはゴム栓の付いたガラス容器)でのワクチン供給があります。通常の季節性インフルエンザワクチンは、1mlバイアルでの供給が当たり前です。
なぜ10mlバイアルを使うことになったのかというと、新型インフルエンザワクチンが不足するから、というのがその理由です。10ミリリットルという大きな容器で作ることにより、瓶の内部(内壁や底)に残るワクチンの割合が減ります。その結果、同じ生産量で25~30%程度、接種可能な人が増えると見込まれています。
(ちなみに、1mlバイアルは中に残ってうまく使えない分を見越して、1.4ミリリットル近くのワクチンが封入されています)
しかし10mlバイアルには問題点があります。いったん封を開けると雑菌が繁殖してしまうため、1日のうちにその量(約20人分)を使い切らなければならないのです。
通常のクリニックで行う接種は、1日に10名程度の場合がほとんどでしょう。でも、翌日に余った分を使うことはできません。それは、ワクチンと同時に病原菌を注射しているのと同じことになるからです。つまり、多くの場合、半分程度のワクチンはムダになってしまいます。
10mlバイアルを使うという方針は、ワクチン絶対量の不足解消という意味では正しいのですが、現場では決してベストな選択とは言えません。上で述べたように、有効に使われないワクチンが多量に発生し、感染症を引き起こすリスクを大幅に上昇させてしまうからです。
でも、仮にですが、「新型インフルエンザワクチンは保健所でまとめて接種する」という政策とセットだったならば、10mlバイアルも効率的に利用されたことでしょう。そして、その場合、10mlバイアルはワクチン不足解消の切り札として賞賛されていたかもしれません。