本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。
「(その1)人間性尊重」の哲学には、次の8カ条があります。
(1)ありのままを受け入れ、持っている能力を引き出し、存分に発揮してもらう
(2)会社都合で従業員を解雇しない
(3)家族の応援と職場のチームワークが活力の源
(4)人を責めずにやり方を攻めよ
(5)異動は一番優秀な人から
(6)3年経ったらサボれ
(7)偉い人が言ったから正しいのではない。正しいことを言った人が偉いのだ
(8)最後に決断を下し、全責任を取るのが上司の役目
これまでに、この中の(1)~(6)について話をしました。 今回は「(7)偉い人が言ったから正しいのではない。正しいことを言った人が偉いのだ」についてお話しします。
一番の発言権を持つのは現場の担当作業員
本流トヨタ方式では、問題が起きた時には必ず現地に行って、現物を見たり触ったりして確認します。その現物が実際にはどの様な状況になっていて(実情)、その中で問題が発生しないようにどの様な手立てが行われているか(実態)を調査し、これらを正確に把握した上で、真因を追究し、改善するのです。
この時、現物を前にして関係者がそれぞれ意見を述べる場ができます。会社ですから、工場長や製造部長、課長、職長、リーダー、担当作業員など、関係する様々な職位の人たちが集まります。
本流トヨタ方式では、問題となった現物に一番良く触っている担当作業員に、事実をよく知っている人として一番の発言権を与えます。作業担当者は、聞いている人が工場長であれ、部長であれ、胸を張って自分の考えを発言するのです。
この場面をイメージして、「偉い人が言ったから正しいのではない。正しいことを言った人が偉いのだ」と言い表しているのです。
このことによって、まず、毎日触れて作業している当事者から正確な情報が得られるというメリットがあります。それだけではありません。問題の真因を解明しようという場面で、すべての社員が対等な立場で発言することで、職場の片隅にまで光を当て、全員の参画意識を醸し出す働きもしているのです。そういう意味で、人間性尊重の重要な手立てでもあるわけです。
若い女性社員が押し黙ってしまった苦い経験
逆に、職位が上の人間が最初に発言するとどんな問題が生じるのか、約20年前の筆者の苦い体験を紹介しましょう。
製造部次長だった筆者は、インフォーマル活動の女子部会の顧問をしていました。ある時、グループ対抗でクイズに答えるゲームに参加しました。筆者のグループには、約10人の若い女性たちがいました。彼女たちにとって、筆者は父親に近い年齢です。