麻生太郎首相のブレと迷走は、人事でも止まらなかった。閣僚や自民党役員人事をめぐるドタバタ劇に、国民はうんざりしていよう。セリフはいいかげん。いつまで経っても人気は出ない。そんな主役はもう舞台から降りるべきだという、退陣コールが共演者からも出始めている。
その一方で、次の主役を狙う民主党代表の鳩山由紀夫にも、「政治とカネ」をめぐる不祥事が発覚した。鳩山よお前もか。役者不在の混迷政局では、お客さん(有権者)がそっぽを向いてしまいかねない。(敬称略)
2009年7月2日。当初、この日に内閣支持率の低迷にあえぐ麻生が「やけくそ解散」、あるいは「破れかぶれ解散」に打って出るのではないかと警戒する声があった。自民党元幹事長の中川秀直は6月28日、自身のブログで「『自爆解散、万歳突撃・全党玉砕解散』をしてはいけない」と訴え、麻生に「名誉ある決断を」と退陣まで要求していた。
しかし、7月2日付の新聞各紙の見出しは、「首相、党人事を断念」(朝日、日経)「決断できぬ首相」(産経)…。党役員人事や閣僚人事の断行で政権浮揚を図り、新体制で一気に解散・総選挙に打って出ようとした麻生のシナリオは消えた。
人事は結局、2閣僚の兼務を一部解消しただけ。サプライズも何もない。有権者の印象に残ったのは、「何も決断できなかった」という首相の優柔不断だけ。党役員人事を断行しようとしても、断念せざるを得なかった首相の無力さが浮き彫りになっただけだ。
一方、自民党内には「少なくとも東京都議選(7月12日投開票)が終わるまで解散はない」(前副総裁の山崎拓)との見方が広がっている。
かつて元首相の小泉純一郎は「首相の最大の権力の源泉は解散権と人事権」と語ったとされる。人事権を行使できない麻生に対し、若手の間では「人事権も行使できない首相が、解散権を行使できるのか」という疑念さえ生じている。
舛添「幹事長」? 安倍、菅が画策した人事刷新
「麻生さんは、政治的に未熟な側近議員の声しか聞かないから、判断を誤るんだ。党幹部やベテラン議員には何も相談しないだろ? 人事の根回しをしていないから、党内で反発を受けるのは当たり前だ。安倍晋三も菅義偉も政治家としては未熟で、党のことが分かってない」
自民党ベテラン議員の1人は、人事刷新を麻生に進言していた元首相の安倍と自民党選挙対策副委員長の菅を厳しく批判した。
安倍は6月24日夜、首相公邸で麻生と会談。大幅な人事刷新とその後の早期解散をセットで進言した。人事では、地味で発信力のない幹事長の細田博之を代えて、人気や知名度の高い厚生労働相の舛添要一を起用する案が浮上。菅は「舛添幹事長なら、どんな下働きもする」と申し出た。宮崎県知事の東国原英夫の閣僚起用説も、新聞やテレビで取り沙汰された。
だが、人事を断行すれば党内に亀裂が走ることは、誰の目にも明らかだった。党三役で交代対象とされた細田や、総務会長の笹川堯が「(人事は)何も聞いてない」と不快感をあらわにしたのは言うまでもない。ここで代えられては、使い物にならなかった「駄目議員」との烙印を選挙前に押されたも同然になるからだ。
衆院選前に幹事長ら党三役を代えることの重大性を、安倍はどこまで考えたのか。党内のリアクションは想定外だったのか。テレビによく出て、国民受けする人材を選挙目当てで登用すれば、少しは内閣支持率が回復する、と単純に思ったのか。そうであれば、浅はかとしか言いようがない。