麻生の悲哀、竹下派全盛期の海部首相とそっくり
安倍の話を聞いて、麻生が党役員人事の検討に入ったのは疑いない。安倍と会った翌日の6月25日、麻生は日本記者クラブの会見で党役員人事について「いろんな方がいろんなことを言う。丁寧に拝聴している」と思わせぶりに答えていた。
その後、6月29日には記者団に「(党人事は)現時点では考えていません」と否定してみせた。ところが30日には一転して、「しかるべき時にしかるべき方を、と前から考えてはいました」と前向きな発言に修正し、メディアは麻生の迷走発言に振り回され続けた。
最後は元首相の森喜朗に説得されて、麻生は党人事をあきらめた。最大派閥のボスには逆らえない麻生の悲哀は、竹下派全盛時代に金丸信に逆らえなかった元首相・海部俊樹とよく似ている。海部はいったん解散に向け「重大な決意」は示したものの、解散を打てなかった。
閣僚人事は、林芳正経済財政担当相と林幹雄国家公安委員長の補充だけ。麻生は記者団に対して「私の口から党役員人事をやるという話はただの一度も一言も聞いた人はいないと思います」「(マスコミが)勝手につくった」などと強がった。
何でもかんでも麻生は自分の発言を棚に上げ、マスコミのせいにしたがる。しかし、マスコミにリークして党役員人事を進めようとしていたのは、一体誰か。麻生に近い議員にほかならない。
麻生、安倍、菅は自民党内の「麻生降ろし」を封じる狙いもあり、人事断行と早期解散を仕掛けようとした。だが、これに対しては反麻生系議員だけでなく、麻生を支持してきた議員も含め党内が猛反発した。麻生が失ったものは、あまりにも大きい。
麻生に距離を置く中川秀直は6月29日、「小泉チルドレン」との会合で「今の状況を改善するには首相に降りてもらうのが一番いい」と明言した。都議選で自民党が敗北すれば、「麻生降ろし」の勢いが一段と加速するのは必至だ。
ただ、麻生の後継候補がまだ見当たらない。それが、「反麻生」派の弱みだ。
天皇陛下外遊中に解散なし? 都議選次第の麻生政権・・・
今後の解散日程に触れておこう。天皇陛下のカナダ、ハワイ訪問は7月3~17日。衆院解散は憲法7条が規定する天皇の国事行為であり、過去に天皇陛下の外遊中に解散した例はない。
町村派会長の町村信孝は7月2日の同派総会で「天皇陛下が心安らかに親善の目的を達成できるような国内環境をつくることは、国会議員、国民として最低限の義務だ」と述べ、7月17日までの解散は望ましくないとの考えを示した。
これに対し、麻生は「天皇陛下が外遊中に、その国事行為の代行は皇太子殿下がなされる。何ら問題はない」と解散権は制約されないとの考えを強調した。麻生の基本戦略は、都議選直後の解散 → 8月上旬の総選挙である。
憲法54条の規定に基づいて、解散の日から40日以内に総選挙が行われる。8月上旬の日曜日は2日か9日。9日は長崎原爆忌だから、前日の土曜日8日を投開票とする案も麻生の耳に入っているという。
都議選結果次第では・・・〔AFPBB News〕
しかし、麻生の解散戦略も都議選での自民党勝利、つまり都議会での自民党の第一党と与党過半数が前提条件になる。自民党が惨敗すれば、党内に「麻生で衆院選は戦えない」との嵐が吹き荒れ、麻生は退陣を迫られる可能性が高まる。麻生が延命できるかは不透明だが、都議選直後の解散が見送られると、衆院選は任期満了近くの8月30日か9月6日まで先送りされるだろう。
こうした中、民主党代表・鳩山の資金管理団体の個人献金偽装問題が発覚し、自民党内には7月28日の国会会期末まで鳩山を徹底追及すべきだとの声が強まり始めた。
鳩山は記者会見で陳謝。民主党幹部は「説明責任を果たした」と口を揃え、幕引きを図ろうとしている。
だが、この問題はそう簡単に終わりそうにない。麻生周辺は「代表辞任、議員辞職があってもおかしくない問題だ。脱税の疑いもある」と指摘する。思わぬ「敵失」だけが、麻生にとって最後に残された頼みの綱となる。
