千葉鉄工団地のバス停前の工場の壁に大書されている戒めがある。

 「銭を追うな、仕事を追へ」

 これこそ、坂戸(さかと)工作所を創立した、坂戸正四郎さんの遺訓であり、現社長、坂戸誠一氏の最も大切にしている言葉だ。

「銭を追うな 仕事を追へ」と書かれた壁の前に立つ坂戸社長

 坂戸工作所は、油圧解体機の分野において、大手企業など数多い競合会社の中で、技術開発を経営基盤の最重点項目に置き、リーディングカンパニーとしての地位を確保している企業だ。

 坂戸誠一社長にお聞きすると、開発の発端は赤軍派による浅間山荘事件(1972年2月)だという。赤軍派が立てこもった山荘を破壊するために鋼球をぶつけていたシーンを見ながら、もう少しスマートな解体法はないかと、油圧を利用した解体機の開発に取り組み始めたという。

 その後、開発に成功し、今では同社の製品群が、歴史的な大事件であるベルリンの壁の解体、阪神・淡路大地震後の復旧工事、ニューヨークの世界貿易センタービルテロ事件など多くの工事で活躍して、世界での評価を確立している。東日本大震災においても大きな力を発揮しており、今後も発揮し続けるのは間違いない。

騒音と危険性が問題になっていた解体手法

 先代社長である故坂戸正四郎氏が坂戸工作所を創業したのは1945年の春、終戦の4カ月前だ。当時、氏は東京の葛飾区にあった建設関係機械の会社に勤務していたのだが、3月10日の東京大空襲で勤務先の工場が焼けて職場がなくなってしまった。広島工場への転勤を打診されたが、それを断って、個人創業した。仕事は建設関係重機械の修理業だ。

 建設機械はその性格上壊れやすく、修理もたびたび必要であったため、元の勤務先も重宝に使ってくれて、商売は順調であった。