兵神装備(へいしんそうび)という変わった名前の会社がある。名前から想像されるように兵庫県神戸市の会社で、産業用ポンプの専業メーカーだ。

 同社が得意にするモーノポンプは、ネジ形状の金属棒を回転させて液体を送る。例えば重油のような高粘度・高濃度液の移送に特に威力を発揮する。その他、UV樹脂などの変質しやすい液や、具入りスープなどの固形物を含んだ液、さらにはトナーなどの粉体までも高精度に「定量」移送することができる。

 プロペラを使うようなポンプは羽根の衝撃で内容物が壊れるし、ギヤを使うポンプは内容物をカミ込んで歯を壊してしまうことがある。その点、モーノポンプは(歌手で言えば瀬川瑛子さんのような感じで)ふわーっと押すから内容物がちゃんと送れる。生きた魚も送れるらしい。

 「研究開発型企業」を目指す同社は、高精度・高効率・環境保全をテーマとして、新素材や制御システムの開発などに取り組んでおり、最近は電子、精密機械の分野でも大いに評価を高めている。

欧州で出合ったモーノポンプ

創業者の小野恒男氏

 兵神装備の創業は1968(昭和43)年。現社長小野純夫さんの父上である小野恒男氏が創業した。恒男氏は事業家で、戦後いくつかの事業を成功させてきたのだが、その中に船舶用のポンプを扱うメーカーがあった。彼は「日本舶用機械輸出振興会」の理事でもあったため、日本の舶用機器を宣伝するために振興会の理事としてヨーロッパに派遣された。このとき彼1人だけ欧州に残って日本にないポンプを調査したのがユニークなところだ。

特殊ハイポサイクロイド曲線

 そこで発見したのがモーノポンプだった。これはフランスのR・モーノ博士が1930年代に航空機エンジンのスーパーチャージャーを開発する途上で発明したもので、当時ドイツで普及していた「特殊ハイポサイクロイド曲線」の原理に基づく歯車機構を応用していた。「ハイポサイクロイド曲線」とは、外円に内接しながら円が回転する時の円周上の定点の軌跡を指すが、その中でも外円と内接円の直径の比率が2:1の場合、内接円周上の定点の軌跡は往復運動(直線)になる。モーノ博士はこの動きをネジ式ポンプの機構に適用した。

 モーノポンプでは、断面が長円のステーターの空間内を断面が真円のローターが回転するが、上記「ハイポサイクロイド曲線」の原理に基づきローターはステーターの内周に沿って回転しながら往復運動をする。一方、ステーターが2条の雌ネジになっているのに対して、中で動くローターは1条の雄ネジとなっているため、ステーターのネジ山とローターのネジ山が連続的に密接することで、シール線によって閉じられた「キャビティ」と呼ばれる個別の密閉空間ができ、この空間の移動によって内容物が移送されるという仕組みだ。

モーノポンプの仕組み(キャビティの移動原理、断面図)