ジェットコースターに乗っているような気分になる本だ。軌道の最高点に達するまでゆっくりとしたテンポで、ニューヨークという一見華やかな街の裏側をのぞかせてくれる。
自分本位の快楽的なセックスや暴力、華やかさに惹かれてこの街に集まって来た人たちの精神的、肉体的堕落・・・。これでもかこれでもかと、「本当の」ニューヨークを見せつけてくれる。
ニューヨークらしさという意味では、この街で使われている俗語を筆者は多用している。恐らく最新の辞書にも載っていないような俗語も数多く含まれるのではないだろうか。
観光客として訪れただけ、あるいは数年程度の駐在経験では、ほとんど見えないような世界がそこにある。
911のテロには日本人が関与していた?
しかし、物語のコースターが最高点に達したとたん、この本は全く別の姿を見せる。2001年9月11日の米同時多発テロを題材にしたサスペンス小説が、今度は極めて速いテンポで展開し始めるのだ。しかも、そのテロには日本人も関与していた。
小説と書いたが、恐らく読者の多くが、ノンフィクションだと言われても信じるのではないだろうか。どの場面をとっても迫真の描写が、小説の世界の中であることを忘れさせてしまう。
前半部分と後半部分で全く違った姿を見せ、それぞれ異なるテーマが内包されているのだが、実は、その2つが深層ではしっかりつながっている。
その接合点は読者一人ひとりが読み解かなければならない。なぜなら、権力と大衆、宗教と民族、米国と日本、男と女・・・、接合点には様々な次元があるからだ。
世界がいろいろな意味で大きく変わろうとしている今、自分なりの世界観を考える際に、良い題材を提供してくれる本だと思う。