「こげなウソでもダメですか」

 話は前後するが、トキは第10回(昨年10月10日)に結婚した。元武家の出の山根銀二郎(寛一郎)を婿に迎え、トキと銀二郎、そして両親、祖父・勘右衛門(小日向文世)との暮らしが始まった。

 トキと銀二郎の夫婦仲は良かった。それなのに銀二郎は第16回(同10月20日)に家を出てしまう。勘右衛門の厳しい武芸の稽古はきつかったのだが、それ以上に大きかったのがウソである。

 松野家は銀二郎が婿になるまで莫大な借金があることを隠していた。婿になったら、返済のために馬車馬のように働かせた。悪いウソだ。銀二郎が出奔したのも無理はない。

 トキはヘブンとの結婚の際にも借金のことを話せなかった。三之丞との関係も伏せたまま。三之丞に生活費を渡しているところをヘブンに見られたが、それが実弟と実母の生活費だと言えなかった。代わりに説明したのはヘブンの親友・錦織である。こう言った。

「本音と建前で、日本の文化です。トキさんはあなたとうまくやりたいから、隠し事をしています」

 それでもヘブンは納得できない。第70回の家族顔合わせの席で、「家族、なる、出来ない。みんなウソ吐き!」と怒りを爆発させる。これにはトキも感情を高ぶらせ、言い返す。「お金のために一緒になったと思われたくなかった」。松野家の借金を隠し、同家と雨清水家に金を渡していたことを黙っていたのはヘブンに嫌われたくなかったためだ。

 銀二郎との結婚は松野家主導で借金返済が目的。打算的だったが、今回はトキ個人がヘブンを好きになった。だからウソを吐いた。ウソの事情が違うのである。

 トキはヘブンに聞く。「こげなウソでもダメですか」。悲しい声だった。思わずフミは「ごめんよ、おトキ」と申し訳なさそうにつぶやく。タエも「ごめんなさい」と力なく漏らした。

 するとトキは2人の母親に向かって土下座し、「申し訳ありません、申し訳ありません」と謝り始めた。親に謝られるのは辛いものである。ウソが招いた哀話だ。

 もっとも、全員が正直に告白し、ウソを詫びると、ヘブンは許す。ヘブンはウソには厳しいが、罪を与えるつもりはないのだ。

 最も重苦しいウソは錦織の学歴と資格の詐称だった。帝大卒で中学校の英語教員資格を持つというのはウソだった。第95回(2月13日)、本人から生徒への告白という形で分かった。

 錦織は松江中の校長に内定していたものの、なくなった。物語では直接的には描かれなかったが、おそらく辞退したのだろう。教え子にウソを吐き続けるのが辛いからではないか。

 ウソには厳格なヘブンだが、錦織のことは責めなかった。錦織の告白の背景には自分が島根県知事の江藤安宗(佐野史郎)の意向に背き、熊本に行ってしまうこともあると考えたからだ。

 そうでなくても咎めなかったに違いない。親友と教え子にウソを吐き続けるのは苦しいはず。それはウソを認めない男だったヘブンでも分かるだろう。

 ヘブンは錦織が校長になれるよう江藤に頼みに行こうと促した。だが、錦織は「いいんです。いつかこうなると思ってましたから」と断る。肩の荷が下りたはずだ。

 これほどまでにウソばかりを描きながら、そう思わせなかった。ふじき氏が制作者に高く評価されるわけである。