「見える化」されていない宗教法人
2024(令和6)年、宗教法人の役員を不正に変更する目的で議事録を偽造した元司法書士や会社役員の男らが逮捕された。その法人は京都市東山区の寺院で、およそ10年にわたって転売が繰り返され、法人格だけが残存する不活動のペーパー法人状態になっていた。
2023(令和5)年には、大阪市阿倍野区の寺の住職と不動産事業者らが逮捕される事件が起きた。
住職は檀信徒が減少する中、経営再建を目論んで寺の敷地に高齢者施設の建設を計画。しかし、資金繰りが悪化したことで、知り合いの不動産事業者から境内の所有権移転をもちかけられた。最終的には法人の名義が書き換えられ、本堂を含む寺院は乗っ取られてしまう。境内地は分割されて、転売されてしまった。
【2013(平成27→平成25年では?)】年には福岡県のセミナー会社代表らが、法人税法違反容疑で逮捕された。代表らは休眠宗教法人の代表権を取得。セミナー受講料を「寄付金」として宗教法人名義で受領し、約27億円の所得を隠し、約8億円を脱税した疑いがもたれている。
こうした状況に、文化庁は対策に乗り出し始めた。2026(令和8)年度予算案には「不活動宗教法人対策推進事業」が計上され、解散命令請求等を含む対策の加速化が明示された。つまり、活動実態のない法人に対する整理・解散が視野に入ってきたのである。予算案では、相談窓口の設置等による実態把握や普及啓発を行う事業も計上された。
背景には、国際的な圧力があることも無視できない。
マネーロンダリング及びテロ資金供与対策の国際基準を策定するFATF(金融活動作業部会)は、日本の宗教法人について「活動しているかどうかだけでしかモニタリングできていない」との評価を下しており、対策の改善を求めている。宗教法人の透明性確保は、もはや国内の行政課題にとどまらず、日本の国際的な信用にも関わる問題になっている。
不活動宗教法人に対する対策が困難なのは、宗教法人の包括的なデータがとりまとめられていないことが大きい。各包括法人も一部、大手教団は傘下にある寺院の悉皆調査を実施しているが、あくまでも内部情報としてオープンにされることはない。
伝統寺院や神社の正確な数、地域分布、有住・無住(もしくは不活動宗教法人)の有無、役員の有無、文化財などの寺宝の所在など、一元的に管理され、閲覧できるようなものが存在していないのだ。
したがって、どこの地域にどれだけの空き寺や無人の神社が存在し、どのような管理状態になっているかは全く分からない。宗教法人が「見える化」されていないことが、悪意のある第三者を暗躍させている最大の要因ともいえる。
宗教法人の見える化こそが、健全に活動する宗教法人の社会的信頼を守る行為であり、宗教法人制度そのものを守ることにほかならない。
鵜飼秀徳(うかい・ひでのり)
作家・正覚寺住職・大正大学招聘教授
1974年、京都市嵯峨の正覚寺に生まれる。新聞記者・雑誌編集者を経て2018年1月に独立。現在、正覚寺住職を務める傍ら、「宗教と社会」をテーマに取材、執筆を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』『仏教の大東亜戦争』(いずれも文春新書)、『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)、『絶滅する「墓」 日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)、『ニッポン珍供養』(集英社インターナショナル)など多数。大正大学招聘教授、東京農業大学非常勤講師、佛教大学非常勤講師、一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事。公益財団法人日本宗教連盟、公益財団法人全日本仏教会などで有識者委員を務める。



