米軍の欧州撤退などに伴うNATOの弱体化

 2025年4月、米国防総省が米軍の態勢に関するより広範な評価の一環として、ジョー・バイデン政権がウクライナ国境諸国の防衛強化を目的に2022年に東欧に展開した2万人の兵士のうち1万人を撤退させる計画を検討していると報じられた。

 また、報道によれば、在欧米軍はロシアのウクライナ侵攻後に10万人超まで増えた時期から約2割減り、現在は8万人規模になっている。

 一方、冷戦時代には旧西ドイツを中心に米軍は最大で約40万人を展開させていたことから、約8万人という数字は、当時の約2割ほどにまで規模を縮小したことになる。

 2025年4月の米下院軍事委員会(HASC)での証言において、当時の米欧州軍(EUCOM)司令官クリストファー・カヴォリ陸軍大将は、現行の兵力規模を減らさず維持すべきだと述べた。

 現在、EUCOMの管轄区域内に配置された約8万人の軍人は、2025年9月時点で大部分がドイツ、イタリア、英国に駐留している。

 他方、EUCOM司令官は、NATOの連合軍最高司令官(SACEUR)として同盟軍の最高司令官も兼務している。

 2025年3月、米国防省がEUCOM司令官の指導的役割の再編案において、SACEURの職を放棄するという案を含めて検討しているとの報道がなされた。

 しかし、今回の司令部再編では、SACEURはこれまでと変わらず米軍将官が務める前提となっている。

 NATOは創設以来、伝統として、米国大統領にSACEURを務める米国人将官を指名するよう求めてきたが、北大西洋理事会がそうすることを義務付ける正式な決議や条約は存在しない。

 これらを踏まえれば、今後、米国がNATO軍最高ポストであるSACEURの職務を放棄する可能性を否定することはできない。

 カヴォリ将軍は前記証言で、米国がSACEURを欧州に移譲するような変更があれば、NATOの拡大抑止を目的とした欧州における米国の核兵器運用計画にも大きな影響を与えると述べている。

 米国の欧州からの戦力削減に加え、主要な司令官ポストの放棄がさらに進めば、欧州における米国の軍事的関与に対する信頼性は極度に低下し、欧州の安全保障・防衛に深刻な影響を与え、NATOの弱体化は避けられない事態に陥ろう。