グリーンランド問題が及ぼすさらなる影響

 米EUCOMの責任地域(AOR)は、欧州、コーカサス、ロシア、アイスランドにまたがり、50の国と地域を包含している。デンマークの自治領グリーンランドは、当然ながら欧州に含まれている。

 それにもかかわらず、米国は2025年6月、グリーンランドを米北方軍(NORTHCOM)のAORに移管する措置をとった。

 同軍の任務は、「米国本土を防衛し、国民、国力、そして行動の自由を守る」(NORTHCOMのホームページ)ことである。

 そのAORは、米国本土、アラスカ、カナダ、メキシコ、および約500海里の周辺海域を網羅し、メキシコ湾、フロリダ海峡、カリブ海地域の一部(バハマ諸島、プエルトリコ、米領バージン諸島を含む)も含むとしている。

 つまり米国のとった今回の措置は、すでにグリーンランドを米国本土に編入し、EUCOMから切り離してNORTHCOMの管轄下に組み込んだと解釈せざるを得ない。

 トランプ大統領は西半球の防衛に主眼を置く「ドンロー主義」を掲げ、グリーンランドの完全購入や軍事的支配までも選択肢から排除しない姿勢を示している。

 他方、デンマークおよび自治領グリーンランドは、米国と安全保障、投資、経済など、政治的にはあらゆることについて交渉できるが、主権については交渉できないと言う立場で一貫している。

 欧州諸国もこれに同調しており、グリーンランドを巡っては米国との間にさらなる混乱や対立が生じる恐れがある。

 このように、グリーンランド問題は、NATOに対する米国の関与低下に加え、一層複雑かつ困難な課題として米欧関係を悩ますことになりそうだ。

 いずれにしても、前掲の通り、トランプ政権は、「国家安全保障戦略(NSS)」と「国家防衛戦略(NDS)」において、米国本土と西半球の防衛およびインド太平洋地域における中国との経済的・軍事的競争に重点を置くとした。

 一方、欧州の同盟国が「欧州防衛の主たる責任を負う強力な立場にある」とし、NATO同盟国の責任の拡大を明記して従来の地域的優先順位を大きく転換・再設定した。

 このままでは日本と防衛協力を進めるNATO欧州の地盤沈下は避けられず、また米国本土・西半球およびインド太平洋地域における戦略的優先順位の高まりを考えると、我が国の安全保障・防衛に及ぼす影響は甚大である。

 そのため、予測不能で不確実なトランプ政権ではあるが、その動向・真意を見極め、今後第2次高市早苗内閣が予定する安全保障関連3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の改定に反映させ、我が国も「激動と変化の時代」に備える重大な作業が待ち構えているのである。