「販売主体」の地位を巡る小売業者のしたたかな戦略
今回の動きで注目したいのは、小売業者側の対応だ。
ウォルマートはグーグルとの提携を発表する一方で、2025年10月にはオープンAIと同様の提携を結んでいる。
特定のAIプラットフォームに依存せず、複数の「エージェント」を受け入れる、いわば「マルチ・エージェント戦略」を鮮明にしている。
ウォルマートなどの小売り側が警戒しているのは、AI販売プラットフォームに顧客接点を完全に委ねることにより、自社が商品供給と配送のみを担う「バックエンド」の存在に限定され、ブランドとしての独自性が失われることだ。
グーグルは、今回のAIエージェント共通規格の発表に際して、小売業者が引き続き「販売主体(Merchant of Record)」として顧客関係を維持できる仕組みを強調した。
このことは、小売り側の一連の懸念を払拭する狙いがあるとみられる。
現在、家庭内実務に長けた米アマゾン・ドット・コムの生成AIアシスタント「Alexa+(アレクサプラス)」や、高度な推論能力を持つオープンAIのモデルなど、消費者が利用するエージェントは多様化している。
こうした中、ウォルマートのような大手は、自社の商品データをあらゆるAIの「脳」に供給する一方で、決済や配送といった実務の主導権を握り、顧客ロイヤルティー(ブランド忠誠心)をいかに維持するかという課題に腐心している。
インフラ能力が分かつコスト競争力
グーグルの攻勢を支えるのは、標準技術にとどまらない。同社が長年投資してきた自社製AI半導体「TPU(とりわけ最新のIronwood、アイアンウッド)」によるコスト優位性だ。
小売業者が膨大な商品データをAIに処理させる際の演算コストを劇的に引き下げることで、サードパーティーの参入障壁を下げている。
これらに加え、グーグルは広告事業において、「Direct Offers(ダイレクト・オファーズ)」と呼ぶ新手法を導入する。
この仕組みでは、AIとの対話を通じてユーザーの購買意欲が高まった瞬間に、限定的な割引を提示する。
すなわち、従来の検索広告のような「クリック待ち」ではない、動的マッチングを実現する。
新たな収益化モデルを模索するオープンAIなどの競合に対し、グーグルは、自社が既に持つ巨大広告エコシステムを活用して新興勢力に対抗する。