理論的に見た食料品の消費税減税の効果

 転嫁率の低い商品に対して減税することは、庶民の生活を楽にする政策にはなりにくいことを上でも述べた。つまり、「すべての商品の消費税減税」では庶民に行き届きにくい物価高対策になる。

 では、比較的転嫁率の高い食料品の減税についてはどうか。これは、富めるものから貧するものへの再分配になるのだろうか?

 普通、食料品の減税は、庶民優遇政策だと考える人が多いだろう。しかし、多くの経済学者は、富の再分配を(給付金などを含めた)所得税だけで行うべきだと考える。これは、所得税が最適に設計されている場合、どの商品の税率も変える必要はないという理論(アトキンソン=スティグリッツ定理)があるからである。

 だが、再分配を理論的に専門に扱う最適課税を研究する公共経済学者なら、必ずしもこの「再分配は所得のみで」という結論が正しくないことを知っているだろう。

 サエズの2002年の研究によれば、再分配の観点から、すでに所得税で目いっぱい再分配をしていたとしても、特定の商品に課税することが望ましい場合がある。それは、富裕層がよく買うものに課税する(貧困層がよく買うものは減税または補助する)ことが再分配としては望ましいという結果である。

 例えば、庶民が100万円のダイヤモンドよりも、100万円分の食料品を選ぶとしよう。

 このとき、食料品の税率をダイヤモンドより低くすることは、すでに所得税で再分配を行っていたとしても、理論的に望ましい。これは、最適課税が専門ではない経済学者からしてみれば意外な結果であるかもしれない。

 食料品は、富裕層も消費するが、支出割合は庶民の方が圧倒的に高い。したがって、理論的には、食料品の消費税を下げることが、再分配の観点から有用な可能性があるのである。

 2026年衆議院選挙における消費税論争は、単なる選挙戦術ではなく、国の財政と国民生活の将来を左右する重要な争点である。各党消費税減税を公約に掲げていて、皆同じに見えるかもしれない。が、よく見れば、財源の根拠の有無や出所の違いに加えて、その下げ方も違う。本稿で見てきたように、税率引き下げの効果は価格転嫁率に大きく依存し、必ずしも消費者に100%届くわけではない。

 庶民優遇の再分配を目的とするなら、転嫁率が高いことが見込まれ、かつ庶民の支出に占める割合が大きい食料品などの商品に絞るべきであろう。

【参考文献】
・Saez, E. (2002) The desirability of commodity taxation under non-linear income taxation and heterogeneous tastes. Journal of Public Economics.
・Benzarti, Y. and Carloni, D. (2019) Who really benefits from consumption tax cuts? American Economic Journal: Economic Policy.
・Benzarti, Y., Carloni, D., Harju, J., & Kosonen, T. (2020). What goes up may not come down: asymmetric incidence of value-added taxes. Journal of Political Economy, 128(12), 4438-4474
・Jaworski, K. and Olipra, J. (2025) The impact of food VAT reduction on prices and inflation: Evidence from Poland. Food Policy.
・Baquero-Pérez, J. et al. (2025) The effect of VAT reductions on food prices: Evidence from Spain. International Review of Economics & Finance.
・Buettner, T. and Madzharova, B. (2021) Sales and price effects of preannounced consumption tax reforms. American Economic Journal: Economic Policy.
・Shiraishi, K. (2022) Determinants of VAT pass-through under imperfect competition: Evidence from Japan. Japan and the World Economy.
・Shoji, T. (2022) Menu costs and information rigidity. Journal of Macroeconomics.
・Hiraga, K. (2020) Regional and sectoral varieties of VAT pass through in Japan. Working Paper.

 

小泉秀人(こいずみ・ひでと)一橋大学イノベーション研究センター専任講師
公共経済学・ミクロ理論が専門で、近年は運と格差をテーマに研究に取り組む。2011年アメリカ創価大学教養学部卒業、12年米エール大学経済学部修士課程修了、12〜13年イノベーション・フォー・パバティアクション研究員、13〜14年世界銀行短期コンサルタント、20年米ペンシルベニア大学ウォートン校応用学部博士後期課程修了、20年一橋大学イノベーション研究センター特任助教、21〜24年一橋大学イノベーション研究センター特任講師、23〜25年経済産業研究所(RIETI)政策エコノミスト、25年4月から現職。WEBサイト、YouTube「経済学解説チャンネル