消費税減税が衆院選の争点の1つに(写真:共同通信社)
(小泉秀人:一橋大学イノベーション研究センター専任講師)
2026年2月8日に投開票が予定される衆議院議員選挙では、消費税の扱いが主要な争点の一つとなっている。だが、消費税を1%下げると、商品価格はどれくらい下がるのだろうか。多くの人は、「税金が下がるのだから、その分だけ物価も下がるはずだ」と考えるかもしれない。しかし、経済学の実証研究は、必ずしもそうならないことを示している。
先に断っておくが、消費税の議論は、財源の問題と切り離すことはできない。消費税は社会保障などを支える重要な財源であり、仮に財源を伴わずに減税を行えば、赤字国債の増発によって、日本売りを通じた円安を引き起こし、かえって物価上昇を招くおそれがある。実際、金融市場はこうした財政運営の持続可能性に敏感に反応している。
本稿では、財源を確保できると仮定した上で、消費税減税がどれくらい物価を押し下げるのか、最新の経済学の実証研究をもとに考察する。そして、食料品の消費税減税に焦点を絞った場合、庶民優遇政策、いわゆる再分配政策として有効な手段になり得るのかについても考えてみたい。
消費税が1%下がっても価格は1%下がるとは限らない
まず、消費税が1%下がったら、消費税1%分を払わなくていいのだから、価格は減税分下がる、普通はそういうふうに思うのではないか。しかし、実際はそうではない。どういうことか。
これは、企業が税抜価格を、減税前よりも引き上げる可能性があるためである。例えば、税込110万円の車があったとして、消費税を0にした後に、販売会社が税抜110万円に値上げして、値上げ分を儲けとする可能性があるわけだ。このように、税率が下がっても、その分だけ価格が下がるとは限らない。
企業が「税抜き価格」を調整することで、減税分を価格に反映させないことがあるからである。経済学では、こうした「税の変化がどれだけ価格に反映されるか」を税の「価格転嫁率」(pass-through)と呼ぶ。この自動車の例では、税の価格転嫁率は「0」であり、消費者への恩恵も「0」で、企業だけ儲けが増える。
問題は、企業が吸収した減税分が、必ずしも家計に戻ってこない点にある。仮にその分が賃上げに回れば話は別だが、日本では実質賃金は低迷が続いており、利益は主として株主還元に向かってきた。
ということは、価格転嫁率が低い場合は、減税しても庶民はあまり恩恵を得られず、むしろ貧するものから富めるものへの逆分配になってしまう可能性がある。