マル特無期=「事実上の終身刑」の是非

 マル特無期とは、1998年に最高検が各地の関係機関に出した通達「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について」(最高検検第887号)、いわゆる「マル特無期通達」に基づく仕組みです。

 通達によると、無期懲役が確定した受刑者のうち、「特に犯情悪質等の者」については、法務・検察側が自らの判断で「マル特無期」に指定。その受刑者については「従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきである」(同通達)として、仮釈放の対象から外す運用を行うことにしたのです。

「マル特無期通達」の存在は通達発出から3年余り後の2002年1月、朝日新聞の報道で初めて明らかになりました。それによると、受刑者は犯罪の悪質性だけでなく、前科や前歴、動機などを検討され、「同様の重大事件を再び起こす可能性が特に高い」などと判断されると、マル特無期に指定されます。

 指定のタイミングは判決の確定直後。地検・高検や最高検が協議し、刑務所側に「安易に仮釈放を認めるべきではなく、仮釈放申請時は特に慎重に検討してほしい」「(将来仮釈放を)申請する際は、事前に必ず検察官の意見を求めてほしい」と伝え、関係文書を保管します。そのうえで、仮釈放を行うかどうかについて、刑務所や更生保護委員会から意見を求められた際には、検察側が一連の経緯を説明するとされています。

 つまり、将来にわたって仮釈放を認めない「マル特無期」を判決後に内々に決定し、受刑者本人にも伝えないまま、運用していくというシステムです。前述したように、日本の刑法には、将来絶対に釈放されないという「終身刑」規定は存在しません。それに対し、マル特無期は行政官庁の裁量によって、実質的な終身刑を科すものと言えます。

 マル特無期の存在が明らかになると、人権団体や法曹界、国会などで政府を厳しく追及する声が上がりました。「刑罰は法律に基づいて行うべきであり、法律には存在しない(事実上の)終身刑を行政官庁の運用で行うのは法治国家ではない」という主張です。また、無期懲役に処せられた者も将来的な仮釈放に一縷の望みをつないで受刑生活を送っている以上、密かにその望みを絶つのは、人権上、大きな問題だとの意見もありました。

 山上被告に対する判決言い渡しは、この1月21日です。果たして山上被告はマル特無期に指定されるのかどうか。指定の有無が明らかにされることはありませんが、「犯罪と更生」「無期懲役と仮釈放」など古くから横たわる課題を社会が再考する機会にもなるでしょう。

フロントラインプレス
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