問題1・過大な便益計算のマヤカシ

 先述した宮本氏は、国土交通省の防災課長まで務めたのち、早期退職し、今では、生活環境や川を守る住民の側に立ち、専門知識を活かして、不合理な河川事業に立ち向かっている。このヒアリングにおいては、石木ダムの費用対効果分析のおかしさを指摘した。

 石木川が注ぐ本流の川棚(かわだな)川は、上流域の河川整備が不十分なため、100年に一度の大雨が降れば上流で溢れてから下流へ到達し、下流で溢れる量は低減される。ところがB/C分析では、その現実を無視して、100年に一度の洪水が上流で1滴も溢れることなく、すべて下流に押し寄せて氾濫する想定になっている。そしてダムによる被害軽減額を便益(B)として計算。つまり便益(B)が過大に計算されている。

 そう指摘されると、国交省は「県の公共事業評価監視委員会で審議されている細かい具体の内容までは、詳細には見ていない」と、県の評価を鵜呑みにして補助金交付を決めていることを認めた。

問題2・必ず過少になる費用計算の誤魔化し

 一方、費用(C)の計算にも問題がある。国交省が定めた「公共事業評価の費用分析に関する技術指針」(2023年9月)が、その問題を引き起こしている。B/CのCに当てはめるのは、総事業費ではなく、残事業費であると定めているのだ。

 宮本さんは苦々しい顔で、「ダム事業には『小さく生んで、大きく育てる』という言葉があるんです。初めに事業費をかなり小さく見積もっておいてスタートさせて、事業を進めていったら事業費がどんどん増える。最終的には全体B/Cは1より小さくなる。一旦始まったら中止できない公共事業の典型的な仕組みですよ」と述べた。

 また、「事業全体でも残事業でも、その両方のB/Cが1.0を上回らなければいけませんよ。一体、いつから残事業でB/Cを出すことに変えたんですか」と後輩官僚に詰め寄った。

 しかし、後輩官僚は、技術指針は省全体で決めたことであり、自分たちは担当外だと逃げ、再評価要領を修正すべきだとの宮本さんの指摘にも、「技術指針に基づいてB/C分析を実施していく」とゼロ回答だった。

【図1】「小さく生んで、大きく育てる」カラクリは、小さく生んだときのB/Cが1以上なら、事業費が膨らんで大きく育った後でも、すでに投下した費用を捨てて、総便益を残事業費で割れば、1を上回る結果を得られるというものだ