楢重の思いが詰まった《卓上静物》
「小出楢重 新しき油絵」展示風景。《卓上静物》1928年 京都国立近代美術館
そんな小出楢重の精神性が強く表れた作品として《卓上静物》(1928年)を挙げたい。静物画は西洋絵画の主要ジャンルのひとつ。果物や野菜がモチーフに使われることが多く、その代表例としてセザンヌのリンゴやオレンジ、レモンなどが描かれた作品を思い浮かべる人も少なくないだろう。
楢重は《卓上静物》のモチーフに、西洋の果物ではなく、日本の素材を選んだ。丸皿に置かれた二尾の魚を中心に、玉ねぎ、にんじん、かぼちゃ、きゅうり、くわいなどの野菜が並んでいる。楢重は市場で野菜を調達する際に、見た目がきれいに整ったものではなく、あえていびつでねじれた形の野菜を選んだ。そうすることで野菜の質感が際立ち、画面には生き生きとした生命力がみなぎった。作品と向き合うと、野菜を苦労して育てる農家の人たちの顔さえ見えるような気がする。これが、楢重が考え抜いた「日本の油絵」のひとつの答えなのだろう。
西洋にはない裸婦像をつくり上げる
「小出楢重 新しき油絵」展示風景。《裸女結髪》1927年 京都国立近代美術館
小出楢重は「裸婦の名手」としても名高い。画業の初期から裸婦像に取り組んでいたが、制作場所には悩まされていたらしい。
「洋室というものは大体において、ベッドなどはさっぱりしていて、むさくるしいという感じが出ないのが万事に好都合なのだ、ベッドはむしろ部屋の飾りの一つとなっている場合が西洋では多い、日本では昼の日中に寝床を見ては如何にも嫌らしい、そこで西洋室に住む画家はいいとして、日本の長屋の二階、六畳において裸婦像を描かねばならぬという事は何んと難儀な事件である事だろう」
楢重は更紗を壁に掛けたり、西洋風のテーブルをひとつ置いてみたりと、雰囲気作りに苦心しながら試行を重ねていく。《裸女結髪》(1927年)は女性の後ろ姿をとらえた裸婦像で、上半身と下半身、ふたつの三角形を組み合わせた幾何学的な構図が用いられている。西洋的な人物表現ともいえるが、描かれた女性は顔が描かれていなくても実に日本的だ。
ほっそりと華奢な身体、真っすぐと伸びた後ろ髪、そして肌の微妙な色合い。楢重は日本人女性の肌について、「黄色に淡い紅色、淡い緑が混ざった肌の色合いに西洋の裸体にはない温かみと肉感を感じる」と述べている。楢重は試行錯誤を繰り返し、絵具を塗り重ね、ついに艶を帯びた日本人特有の肌をつくり上げた。
西洋美術の伝統的な主題である裸婦像を、日本の価値観で生まれ変わらせた小出楢重。日本が生んだ「新しき油絵」はこれからも人々を魅了していくだろう。
「小出楢重 新しき油絵」
会期:開催中~2026年3月1日(日)
会場:府中市美術館
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(1月12日、2月23日は開館)、1月13日(火)、2月24日(火)
お問い合わせ:050-5541-8600
https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/tenrankai/kikakuten/koide_narashige.html




