安倍氏殺害後の展開はほぼ山上被告の狙い通り、だがひとつだけ…
山上被告は安倍元首相を襲うことを「本筋ではないなと思っていた」と語る一方で、裁判員から「教団幹部の襲撃によって、献金問題や家族不和を解決したいと述べていたが、それは山上家の話か、被害者全体の話か」と問われて、「ほかの被害者を含んだ話」と答えている。
さらに旧統一教会の解散命令など、事件後の社会の動きについては、こう語る。
「予測はできないが、こうなってくれたのは、私としてはありがたい。私の母にとっても世の中にとってもあるべき姿」
「安倍氏は元首相で非常に影響力がある。そういった方を殺害をしてしまったのは、とても大きな意味があった」
本音は言わずとも、山上被告にとっては、もう最初からこうなることを望んだシナリオの上での犯行ではなかったか。
崩壊していく自分の家庭が、いつの間にか社会から置き去りにされていく。社会問題どころか、統一教会の存在すら、忘れ去られていく。この苦しみは、自分だけのものなのか。家庭だけの問題なのか。母親が悪いのか。いや、母を騙している教団がおかしいのだ。放置しておく日本が異常なのだ。そこに飛び込んできた、元首相と教団との癒着。絶望と危機感。復讐の機会がここにある。統一教会を破壊する。日本社会への報復と啓蒙。そのための引き金を引く。
いまとなってはシナリオどおり。すべては山上被告の思う壺だ。旧統一教会を崩壊へ導き、日本の政治も変えてしまった。ただ、それも政治テロ事件であることを据え置いたまま。私の中には「絶望と危機感」が残る。
そして、山上被告のシナリオがひとつ外れるとすると、旧統一教会が解散しても、母親が自分のところに戻ってこないということだろう。
カルトとは、そんなに甘くはない。