12月2日の第12回公判で山上被告は、裁判官から「(怒りや恨みなどの)そういった感情は母親には向かわなかったのか」と問われたのに対して、こう答えている。

「そもそも母親の献金は旧統一教会の教義に従ったもの。母個人ということでもない」

 実際に韓国から来日した教団幹部をナイフや火炎瓶で襲うことを企てるも、ボディーガードがいたことなどからうまくいかず、やがて確実性を持たせるために銃の製造にとりかかる。

安倍氏が送った教団へのビデオメッセージで感じた絶望と危機感

 そして、旧統一教会へ向かったはずの怒りや恨みが、安倍元首相へ移行していく。以下は、11月25日第11回公判での弁護人とのやりとり。

弁護人「旧統一教会と安倍元首相を結び付けていたか」
被告「祝電を送っていた」
弁護人「官房長官時代(2005〜06年)の祝電?」
被告「そのころ、旧統一教会の関係者が『われわれの味方』と言っていた」

 さらに安倍元首相は、襲撃事件の前年の9月に、統一教会の創始者である文鮮明の妻で、いまの教団の主宰者である韓鶴子が、やはり総裁の地位にあるNGO「天宙平和連合(UPF)」のイベントにビデオメッセージを送って、こう明言している。

「韓鶴子総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」

弁護人「(このビデオメッセージを)見たか」
被告「はい」
弁護人「考えたことは」
被告「被害を受けた側からすると、非常に悔しい、受け入れられない」
弁護人「感情の言語化を」
被告「絶望と危機感かと」
弁護人「怒りは」
被告「怒りというより『困る』という感情でしょうか」

 この「絶望と危機感」という言葉が、この事件の本筋を物語っているように思えてならない。