トランプは憲法を理解していない

町山:ところがトランプは、ベネズエラとの戦争について議会の承認が必要かと問われ、「いらないと思う」と答えています。つまり、トランプは憲法や国家の仕組みを理解していない可能性が高い。独裁的というより、制度そのものを知らない側面もあると思います。歴史的には多くが弁護士出身で、憲法や法律に精通していましたが、トランプはそうではありません。

 同じ問題は関税政策にも表れています。トランプは各国に関税を仕掛けていますが、関税を決める権限は本来、議会にあります。そのためトランプ関税は違法だとして裁判になっています。トランプは「非常事態」を理由に大統領令で押し切ろうとしていますが、その正当性自体が問われている状況です。

トランプ米大統領(写真:AP/アフロ)トランプ米大統領(写真:AP/アフロ)

 さらにトランプはワシントンDCやロサンゼルスなどに州兵(ナショナルガード)を派遣しています。州兵は本来、各州が管理する予備兵力で、主に災害対応などに使われる存在です。ところがトランプは、自分が気に入らない都市、特に民主党市長や黒人市長の都市に対し、治安維持を名目に軍を送り込んでいます。

 しかし、州兵を治安維持目的で投入することは、原則として厳しく制限されています。これを大統領が行えば、軍事独裁国家と同様の事態を招きかねません。

マライ:閣僚にはトランプを止められる人がいないのですね。

町山:米国の最高裁は9人の判事による多数決で憲法判断を行いますが、現在は6人が共和党系で、そのうち3人はトランプが指名した判事です。そのため最高裁は事実上、トランプに有利な判断を下す状況になっています。

 象徴的なのが選挙区割りの問題です。テキサス州では2025年、共和党が優位になるよう連邦下院の選挙区を再編する地図が可決されました。これを巡り、下位の連邦裁判所は違憲の可能性があると差し止めましたが、最高裁はその差し止めを停止しました。