1979年に中越戦争が勃発した時、ベトナムは軍の主力をカンボジア戦線に送っており北部は手薄だった。それにもかかわらずすぐに予備役を召集して戦い、数において勝る中国軍を撃退した。その時の人的被害については一切公表されていないが、ベトナムは兵士10万人、民間人10万人を失ったようだ。日本の沖縄戦に匹敵する損害である。民間人の死者が多いことは、ベトナム戦争と同様に民間人が軍に協力して共に戦ったためと思われる。

 大きな損害を出したものの中国軍を撃退した。ベトナム人は、中国軍は数は多いが士気が低く、戦いが長引けばベトナムは必ず勝利できると信じている。

中国・北京で開催された北京香山フォーラムの会場に到着した中国の董軍国防相とベトナムのファン・ヴァン・ザン国防相(資料写真、2025年9月18日、写真:ロイター/アフロ)

【4】受け身の経済関係

 現在ベトナムの最大の貿易相手は中国である。トランプ関税では中国からベトナムを経由する、いわゆる迂回輸出が問題になった。中国から米国への輸出が難しくなり始めた一昨年辺りから、中国の工場がベトナムへ移転して来ている。それは経済発展に有益なので、ベトナム政府は容認している。

 中国で失業が問題になる昨今、中国企業は工場だけででなく労働者もベトナムに連れて来ている。それに伴い中国人が経営する飲食店だけでなく、売春婦までも増えていると噂されている。ベトナム人は眉をひそめているが、これまでのところ政府は目立った規制を行っていない。

 ただ中国企業は土地を取得できない。カンボジアは経済特区において99年間の土地租借権を中国に与えたが、ベトナムはそのようなことを行っていない。